この記事の連載

 新しい年とかけまして、フライドチキン好きと解きます。その心は、どちらも1年の計(鶏)は元旦にあり、でしょう! 年明けに家族や親しい友人との集いでフライドチキンを食べたひとも“ひ鶏(とり)”チキンを楽しんだ人もいるのでは?

 「365日、いつでもフライドチキンが恋しい!」というご同胞のための短期連載、その名も『フライドチキン齧り隊』。肉を糧に生きる肉食系ライターの小寺慶子が、東京の寒い冬をアゲアゲ気分で過ごすことができる、フライドチキンが自慢のレストランをご紹介します!


【第二夜】パスポートなしで行けるアメリカで南部のフライドチキンを堪能!

 新しい1年を迎えて「さぁ、今年はどんな年にしよう」と考えている方も多いと思います。サボっていたダイエットを始めるとか、新しい習い事にチャレンジするとか、ずっと行きたかった場所に旅に出るとか。もっと大きな決意を胸に新年を迎えられた方も少なくないはず。

 私は、コロナ前は毎年の恒例イベントとして楽しみにしていたアメリカ旅行を再開させるという目標を立てました。パンデミックが起きる前は、50あるアメリカ全州を回るべく1年に1~2州と決めて、あらゆる場所に出かけていました。アメリカを旅する目的のひとつは、日本未上陸のステーキハウスや地元で人気のローカルグルメを探し、体験すること。言葉は不十分(というには不十分すぎますが……)でも、食を愛する心と丈夫な胃袋があれば、なんとかなる! と食べ歩くことは、私の人生の大きな楽しみです。

 アメリカ南部のルイジアナは、メキシコ湾に面していることからシーフード料理が有名ですが、多様な文化が混じりあいながら発展してきた場所とあって、あらゆる国の料理人が注目する美食の地でもあります。次に行くならルイジアナ! せっかくなら南東部のニューオリンズのマルディグラ(謝肉祭)にも訪れてみたい! という強い願いが引き寄せたのでしょうか。本連載の編集担当Hさんから「麻布十番でアメリカ南部のフライドチキンを食べませんか?」とお誘いをいただき、浮き足立って“謝肉祭”の前哨戦へ。

日本にいることを忘れる“鶏っぷ”気分!

 予約の日を待ちきれず、思わずフライングチキンをしそうになる心を押さえながら向かったのは、麻布十番商店街にも近い、飲食ビル内に店を構える「Soul Food House」。

 日本では“ソウルフード”というと、故郷の慣れ親しんだ味という意味をイメージしますが、もともとは1960年代に南部で生まれた食べ物を指す言葉なのだとか。オーナーのデヴィット・ウィティカーさんと妻のラトーニャさんはアメリカで結婚して来日。当初はレストランを経営するつもりはなかったと言いますが、来日以来、欠かさずに開催していたサンクスギビングのディナーが大好評だったため、そこで提供していた南部のソウルフードを出す店を始めたのだそう。

 物件探しなど、友人たちの協力もあってオープンした店は今年で10年目を迎えますが、予約必須の人気ぶりでディナーは連日、超満員。ゲストの大半は日本に暮らす外国人で、2017年にNetflixの番組に取り上げられてからは、海外から訪れるひともどんどん増えているといいます。

 店内の陽気なムードを生み出す会話やオーダーももちろん、すべて英語。ここは海外? と思わず錯覚してしまいそうな、トリップ気分を楽しめるのもこの店の魅力です。学生時代にルイジアナに暮らしたという妻のラトーニャさんは、自慢のガンボを器に注ぎながら「ホストファミリーの家で作った思い出の味よ。私たちの料理を食べて、ゲストが美味しいと喜んでくれることがとても嬉しいの。家族と一緒にこの店を続けられることがとてもハッピーだし、なによりも私はこの仕事が大好きなの」と満面の笑顔。その様子を見ながら、デヴィットさんも息子さんもとても嬉しそう。

 甲殻類などからとったベースのスープにケイジャン・シーズニングや野菜を加えてじっくり煮込んだオクラキノコガンボスープは「甘すぎずしょっぱすぎず、毎日食べたくなる味に仕上げている」とラトーニャさんが言うように、優しい旨みに心がほっこりなごみます。

2025.01.13(月)
文=小寺慶子
写真=榎本麻美