「生理に気づけない」「生理の仕組みを理解するのが難しい」
――インテグロさんは、2024年2月に視覚障害のある方を対象にした「フェムケア勉強会」を開催されたと伺いました。こちらは、どのようなきっかけで始まったのでしょうか?
神林 「一般社団法人 視覚障がい者美容協会(JBB)」の代表の方が、女性生殖器模型の販売を開始したというリリースを見てご連絡くださり、「ぜひこの模型を使って、視覚障害者向けの勉強会を開催したい」とご相談いただいたのがきっかけです。
JBBさんからは、視覚障害のある方々が「生理に気づけない」「生理用品が選べない」「体の構造を図で確認できないため、生理の仕組みを理解するのが難しい」という課題を抱えていると伺いました。
――参加された方々の反応はいかがでしたか?
神林 最初は緊張している様子もありましたが、勉強会が始まるとみなさん積極的に取り組んでくださいました。月経カップの装着や取り出しの練習をしたり、一緒に生殖器模型を触って、体の構造や臓器の位置を確認したりもしました。
木下 石浦さん、こちらがインテグロで販売している模型です。ぜひ触ってみてください。ここが膣の入口で……。
石浦 (模型を触りながら)なるほど。わかりやすいですね。
神林 勉強会の最後には「参加できてよかった」「月経カップや吸水ショーツも試してみたい」といった声をいただき、私たちも励みになりました。
――石浦さんとの出会いや勉強会を通して、神林さんや木下さんが感じたこと、気づいたことはありますか?
木下 ひと言で「視覚障害」といっても、本当にひとそれぞれだということを改めて感じました。石浦さんのように途中で視力を失った方もいれば、生まれつき見えない方もいるんですよね。
ただ、月経カップも言葉だけで説明するのは難しいですが、手で触れてもらうことでサイズや形状、使い方をしっかり伝えられると気づきました。丁寧なサポートがあれば、障害があっても問題なく使えるといううれしい発見がありました。
神林 目が見えないことで、「経血漏れに気づけない」「生理用品の買い物や在庫管理が大変」「月経カップなど新しい製品の情報を得にくい」といった課題があることは、実は想像すればわかることなんですよね。それなのに、普段どれだけこうした視点を持たずに生活しているかを痛感しました。
同時に、月経カップは視覚障害だけでなく、他の障害を持つ方々にも役立つ可能性があると感じました。ナプキンやタンポンよりも容量が大きく、頻繁にトイレに行くのが難しい方にとって、非常に便利な選択肢です。
ダウン症のお子さんを持つお母さんからの問い合わせ
――石浦さん、パラアスリート仲間に月経カップを薦めたことはありますか?
石浦 以前、パラ水泳の仲間で手と足がない選手に相談されて、月経カップを紹介したことがあったんです。彼女は生理用品を交換するたびに誰かの手を借りなければなりません。月経カップと吸水ショーツを併用すれば、学校や外出先で交換する必要がなくなり、自宅で処理をするだけで済むのでは、と考えたそうなのですが、ご両親から反対されて断念したそうです。
神林 そうだったんですね。もしかしたら、介助するご両親がカップの装着や取り出しをすることになるため、それは難しいだろうと感じたのかもしれませんね。ただ、親御さんが反対するケースは健常者でも少なくありません。特にお母さんが、自分が使ったことのない生理用品に対して不安や抵抗感をもつことはよくあるようです。タンポンやピルについても同じような話を聞くことがあります。
木下 一方で、お母さんのほうから関心を持ってご連絡くださることもあります。
以前、初潮前のダウン症のお子さんを持つお母さんからご相談を受けました。その方も、学校でナプキン交換の介助を先生にお願いする必要があり、少しでもその手間を減らしたいと考えて、長時間耐えられるような選択肢を探していらっしゃいました。
そこで「お母さんからお子さんに月経カップの使い方が教えられるように、まずはぜひご自身で使ってみては?」と提案したんです。その結果、お母さんは実際に月経カップを使って生理のさまざまな不快感から解放され、カップの大ファンになってくれました。お子さんもカップを見て「かわいい! 私もほしい!」と、興味を持ってくれたそうです。「カップのおかげで娘の生理に対する不安が軽減して、気持ちが楽になった」と喜んでいただきました。
神林 障害の有無にかかわらず、母親や介助者など身近な人が生理ケアの選択肢を増やしておくことは、若い世代の女性たちの選択肢を広げることにつながると思います。
2024.12.17(火)
文=河西みのり
撮影=平松市聖