料理人たるもの、占星術を理解していなければいけない?
月の力をとりいれる……こういった考え方は、ヨーロッパに古く伝わる“おばあちゃんの知恵”のようなものかもしれません。
私が持っている古い本、『メアリー・ポピンズのお料理教室――おはなしつき料理の本』(文化出版局)には、19世紀のイギリス家庭料理が紹介されています。その中に面白い記述を見つけました。ビーフ・パテを作ろうとした木曜日に、メアリー・ポピンズの親戚のトゥイグリーさんというおじいさんが現れて、こどもたちに話すセリフに注目。
「おやおや、願いが叶うのは、5月3日の後の、2度めの雨ふりの日曜日が過ぎた、最初の新月のときと決まっているんじゃよ」
このようにイギリスでは古くから、新月の日には特別な力が宿ると信じられていたのでしょう。
メアリー・ポピンズの時代からはるかにさかのぼったローマ時代にも、宇宙の天体と食べ物の関係は研究されていました。『古代ローマの食卓』(パトリック・ファース著/東洋書林)には、古代ローマの食文化を多彩に彩る、星と食べ物についての記述があります。
その本の中では、劇作家ニコメデスの主張として、「料理人には、占星術と数学と医術と芸術の理解が必要である」という言葉が記されていると同時に、巨大な皿をホロスコープに見立てて、各星座部分に食材や料理を並べた当時の宴会の様子が記録されています。古代ローマの料理人の発想は、ずいぶん斬新だったのですね。
今回はテーマに沿って、月の食材を紹介しましたが、月以外にも美と調和をもたらす金星の食材や、繁栄・金銭を象徴する木星の食材などなど、食べ物と天体の関係は奥が深いのです。風薫る5月。今月の満月は15日、そして新月は29日。メアリー・ポピンズの本に出てくるトゥイグリーおじさんの話にヒントを得て、月の食材を使った「ムーンパーティー」を開いて、月に願いをかけてみてはいかが。
Column
岡本翔子の「月」にまつわる暮らしの手帖
「岡本翔子の日めくりMoon Calendar」を連載中の岡本翔子さん。このコラムでは毎月1日に、「月」を身近に感じながら、季節の移ろいをこまやかに感じ取り、日々の暮らしを豊かに営むためのヒントをご紹介します。
2014.05.01(木)
文・撮影・料理=岡本翔子