――池松さんが石井裕也監督に話を持ちかけられて、プロデューサーと3人で、平野さんに会いに行かれたそうですね。
池松 俳優が出すぎた真似をしていいのかなとも考えましたが、説得する大きな要因になればと思い、行きました。何より、以前から平野さんの作品のファンだったので、会いたいということもあったし、自分で気持ちを伝えたかった。これだけの小説なので、もう他に手が挙がっているだろうなと思いましたが、たまたま1番でした。
平野 映画化の話はいろいろありますが、実現しないことも多いのでぬか喜びしないように、と思ってました。ただ、俳優さんがどうしてもやりたいと、監督さんと一緒にわざわざ来て下さるのは、なかなか珍しいことです。
会ってみて、池松さんが映画に対して持っている真面目な考え、実行しようとする意欲に、心を打たれました。『本心』の朔也は、非常にナイーブでピュアな心をもった青年です。この殺伐とした世の中で、懸命に自分で生きていこう、前進していこうとする青年の物語と、池松さんの映画に対する真摯な態度に、響き合うものがあると感じて、その場で「よろしくお願いします」となりました。
順調にこのプロジェクトが進んでいって、映画が実現したことは、本当に幸福でした。
原作と映画で、なぜ時代設定が変わったのか
――石井監督が脚本を書かれたのですが、これはずいぶん時間がかかったようですね。
池松 そうですね。これまでも、石井監督の映画には関わってきましたが、改稿を重ねて、今回は一番長くかかったんじゃないでしょうか。対話も何度も繰り返しました。
――平野さんは脚本を読まれて、また映画を見て、どうお感じになりましたか。
平野 もともと長編小説を2時間の映画にするのは、難しいです。特に『本心』は情報量が非常に多いので、そのままストーリーをなぞる形で映画にすると、「ダイジェスト版」みたいになってしまう。一回解体して再構築をするやり方しか無理だと思うのですが、今回最初にあがってきた脚本から、単純に面白かったですね。
2024.11.17(日)
文=「文春文庫」編集部