平芳さんが学生の頃はまだファッション研究は成熟しておらず、教員に「ファッションはやめた方がいい」と言われたという。
「当時は、哲学者の鷲田清一さんが現象学的な観点からファッション論を発表して注目されていました。ファッション研究をやりたいと言うと、『鷲田さんみたいなやつ?』と聞かれるほど(笑)。それだけ影響力が大きかったんです。私はまた違ったアプローチを探して、実際に身に纏うものとして現代のファッションデザインの女性性に着目したり、歴史をさかのぼることで現代のファッションをより批評的に考察し、未来に繋げる研究を目指しています」
ファッションの刹那性や日常性、女性性が、研究対象として軽視されてきた一因であるとも指摘する。
「たとえば19世紀後半に創刊されたアメリカのファッション誌『ハーパーズ・バザー』や『ヴォーグ』はパターン(型紙)を付録や通販で扱っていました。現代のように既製品が普及する以前は型紙が重要なメディアだったんです。でも、素敵な服を作ったら型紙自体は処分されてしまう。実用的な消耗品なので、研究対象として重視されてきませんでした。これまで着目されてこなかったものに研究の可能性があるのも、おもしろいところだと思います」
ひらよしひろこ/1972年東京都生まれ。東京藝術大学美術学部芸術学科卒業。東京大学大学院総合文化研究科博士課程単位取得退学。著書に『まなざしの装置:ファッションと近代アメリカ』(青土社)、近刊に『日本ファッションの一五〇年:明治から現代まで』(吉川弘文館)。
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定価 990円(税込)
筑摩書房
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2024.11.12(火)
文=「週刊文春」編集部