大学でファッションについて学ぶとはどういうことか。ファッション論とはどんな研究なのか。そもそも「ファッション」とは? 平芳裕子さんの『東大ファッション論集中講義』は、ファッション研究のための多角的な視点を提示し、入門書としても最適の一冊だ。
「神戸大学で授業を持って20年ほど経ちますが、もっと多くの人にファッション研究の面白さを伝えるために教科書を作りたいと考えていたんです。東京大学で集中講義をとお声がけいただいた時、伝えたいことをコンパクトに凝縮し、この講義をもとにいつか教科書にできればと思いました」
講義終了後、SNSに「これ本にならないかな」とシラバスの画像と共に投稿したものがバズって、多数の出版社からオファーが。
「東大でファッションの講義をやるということが新鮮に受け止められたのだと思います。文学部美学芸術学の特殊講義だったのですが、実際に、これまで音楽や映画、アニメーションなどいろんな芸術ジャンルの講義が開講されてきた中で、ファッションの講義は初めてだったそうです。『私も講義を受けたかった』という一般の方の声もあったので、書籍化する際もなるべく東大での授業の形式を活かしました。講義の順番も見出しも、ほぼそのままです」
そう語る通り、4日間の集中講義を再現し、1講義ごとに1テーマを扱い、全12講となっている。
「講義の構成を考えるにあたって、まず切り口となるキーワードを書き出していきました。『裁断と縫製』『自由と拘束』『モデルと複製』というように2つの言葉を並べていますが、キーワードを組み合わせることで、ファッションにおける新たな問題について考えられるようイメージしています」
他にも「身体と表象」「女性と労働」「日本と近代」……など、ファッションをめぐってこれだけの切り口があるというのが興味深い。
「ファッション研究というのは1つの確立された学問分野があるのでなく、従来の学問分野の中でファッションを研究している人たちが緩やかに連携しているんです。芸術学や歴史学、社会学、哲学など様々なアプローチの仕方があり、それらが連携して『ファッションスタディーズ』という新しい学術領域をなしています」
2024.11.12(火)
文=「週刊文春」編集部