コルビー氏によれば、この戦略の要諦は「中国によるアジアでの地域覇権」を拒否することにある。より具体的にいえば、中国政府の覇権拡大の野望を完全に封じ込めるために、アメリカとそのアジアの同盟国たちは積極的に軍備を拡大し、その結果として中国側の意図をくじくことに集中すべきだということになる。
アジアは経済成長率(パワー)の集積地である。中国は、台湾をはじめとしたこの地域での覇権を握ることによって、世界秩序の変更を試みようとしている。
しかしながら、直接的な軍事侵攻や占領を実行できなければ、最終的な中国の地域覇権達成にはつながらない。したがって、この地域における中国政府の軍事侵攻を拒否することができれば、現在のアメリカの東アジア、そして世界における優位は維持される。結果として、日本をはじめとする西側諸国の権益は、中国に奪われずに済む。これこそが今後のアメリカの対中戦略における最大の任務であるというのだ。
本書はコルビー氏みずからが拒否戦略を一般読者向けにわかりやすく説明し、その背後にあるロジックや論証などをブリーフィングしたものだ。著書『拒否戦略』の内容をさらにアップデートしてわかりやすくまとめたものという位置づけになっており、アメリカを代表する現役の戦略家の頭の中身を知るには恰好の資料である。
コルビー氏はただ結論を示すだけでなく、なぜそのような考えに至ったのか、思考の過程をやさしく丁寧に説明している。リベラルな非戦論が溢れる中、これほどまでに軍事の重要性を直視した戦略論を怯むことなく堂々と展開しているのは新鮮に映るほどだ。
先にも述べたように、共和党政権になればコルビー氏が政権入りし、「拒否戦略」が実行されたり大きな影響を与えることはほぼ確実である。当然、それは日本に決定的な影響を及ぼすだろう。本書で説明されている内容は、日本政府の安全保障関係者たちには無視できないものである。
2024.11.10(日)