冷戦時代に活躍したアメリカの政治学者ジョージ・ケナンは40歳そこそこの若手ながら「ソ連封じ込め」戦略を提案したが、コルビー氏も30代後半で「中国封じ込め」の戦略を描いたことで、一躍脚光を浴びる存在となった。一部には「ケナンの再来」となぞらえる向きもある。
現在、コルビー氏は自身が主宰するシンクタンク「マラソン・イニシアチブ」の代表を務めつつ、主に対中戦略の分野でメディアに積極的に出て自身の戦略を提唱しているが、もし共和党政権が誕生すれば政権入りすることが確実視されている。
そのコルビー氏が、アメリカおよび日本を含めた同盟国の新たな対中戦略として提案するのが、「拒否戦略」(Strategy of Denial)というものである。2021年にアメリカで出版された『The Strategy of Denial: American Defense in an Age of Great Power Conflict』は日米の安全保障関係者たちの間ではとりわけ大きな話題となっている(日本でも『拒否戦略:中国覇権阻止への米国の防衛戦略』〈日本経済新聞出版〉というタイトルで刊行)。
コルビー氏の分析の最大の特徴は、「もうアメリカ一極時代は終わり、その国力の優位は減少しつつある」という厳しい情勢認識が通奏低音のように流れている点だ。ただ、それは単なる悲観主義ではない。
本書の中でも繰り返し述べているように、コルビー氏は自身を「リアリスト」(現実主義者)であると規定している。思い込みや楽観を排し、アメリカと中国の国力を極力正確に捉えたうえで、「アメリカの世界戦略はどうあるべきなのか」という問題に正面から向き合おうというのが基本姿勢である。そのうえで、最大の危険はアジアの「パワーの集積地」において中国が覇権を握ろうとしていることにあると指摘している。
基本のキからわかる「拒否戦略」
では、中国に覇権を握らせないために、どうすればよいのか。本書の前半で説明されるが、アメリカはあらためて戦略的な優先順位を意識し、欧州や中東にリソースを浪費することなく、最大のライバルである中国の拡大を抑止することに集中せよというのがコルビー氏の戦略の骨子である。そのために必須となってくるのが「拒否戦略」である。
2024.11.10(日)