今、世界各地で安全保障上の脅威が高まっている。ロシア・ウクライナ戦争、イスラエルとハマスの戦争がその代表的なものだが、イランが支援するイエメンのテロ組織「フーシ派」やレバノンの「ヒズボラ」も、いつイスラエルと全面戦争を始めてもおかしくない状況だ。
だが、日本に最も関係があり、しかも21世紀の国際政治の運命を決することになりそうなのが、中国の動向である。習近平国家主席は台湾統一を「歴史的必然」であると明言し、軍事侵攻への準備を着々と進めている。南シナ海においては人工島を建設し、フィリピンなど周辺諸国の公船に対し放水銃などを用いた妨害行為をおこなうなど、武力行使一歩手前の行動を繰り広げている。さらには東シナ海の尖閣諸島周辺海域において日本側への圧力を強めているばかりか、沖縄に対する野心も隠そうとしていない。
中国の公表国防予算は1990年代からほぼ毎年二桁の伸び率を続け、深刻な経済危機にあると言われている現在もなお軍拡は続いている。一方のアメリカは2000年代にイラクやアフガニスタンの泥沼に足を取られて消耗し、社会の分断など内向きの対応に追われている。2022年2月からはロシア・ウクライナ戦争にも肩入れして巨額の資金と武器を援助し続けているが、出口は見えない。そうこうしているうちに、アメリカの退潮は誰の目にも明らかになり、対照的に中国はますますアジアにおける勢力を伸長し、世界の覇権をうかがおうという姿勢を露骨に示している。
中国的価値観をよしとしない陣営の国々──アメリカだけでなく、当然日本もその中に含まれるのだが──は、勢いに乗る中国にどう立ち向かえばよいのだろうか?
現代のジョージ・ケナン
今、アメリカで最も注目されている戦略家のひとりに、エルブリッジ・コルビーという人物がいる。2002年にハーバード大学を卒業後、米国防総省(ペンタゴン)などで国防関連の政策立案に従事。そして2017年、弱冠30代後半ながらトランプ政権下で国防次官補代理をつとめ、「国防戦略」(NDS)をまとめる過程で主導的役割をはたした。NDSは、まず何よりもアメリカの利益に対する中国の挑戦への対応に力点を置くよう促すもので、イラクやアフガニスタンから中国へ舵を切る大方針を示した。
2024.11.10(日)