やがて広い道に出ると、コンビニの灯りが見えた。嵯峨野と俺は喜びに息を飲む。
なかに人がいるのが見えた。お菓子も売っているはずだ。一晩ここでやり過ごすことだって……一緒に走り出した、そのとき。
「トリック・オア・トリート!」
振り返ると、黒いとんがり帽子の少女が笑顔で両手を差し出していた。
嵯峨野は引き攣った笑みで硬直する。彼と同じ年ごろの少女に見えたが、肌は青白く、唇は生き血を啜ってきたばかりのように赤い。やたらと大きな黒目で摩擦の強そうな瞬きをする姿が奇妙だった。
ホラー映画の怪人か、宇宙人か……そんな表情の読めない瞳だ。
嵯峨野は両手を前に突き出す。
「お、お菓子……持ってな──」
彼が馬鹿正直に言う前に俺が言葉を被せた。
「そこのコンビニで買ってやる。だから見逃してくれ」
少女はきょとんとした顔で首を傾げる。ふくろうのようだった。ミニスカートから伸びる細い脚が、つと動いて距離を詰める。
「え~持ってないの? さがのくん、ハロウィンとか嫌いだっけ?」
俺を無視して、少女は嵯峨野を正面から見上げた。
すうっと恐怖心が褪せていった。嵯峨野は柔和な顔で困った様子を見せる。
「ちょ、近いよ和高さん」
「まりちって呼んでよ。なんで苗字なの?」
「いや、学部も学科も違うし……友達とファンは違う、し」
「んー、ちょいファンでもあるけど、確かに入学前から知ってたけど……大学一緒だし友達のつもりなんだけどな。違うとか言われると、ちょっと寂しいかも」
少女には、ちゃんとした脚があり、影もあり、俺の声は聞こえていなかった。
嵯峨野が「ごめん」と謝ると、少女は「いいよ」とおかしそうに笑う。
「うん……変なファンばっかりじゃないよね。酷いときもあるけど……」
嵯峨野はどこか暗い表情で言った。
トラウマでもあるのか、有名人は大変らしい。
「和高さんみたいなファンがいて、よかった。というか……とにかく今は、どんな人でも会えてほっとした」
2024.10.29(火)