「どゆこと?」
「はは、助かったなぁって。ちょっと待ってて、コンビニでお菓子買ってくるよ。今日だけ特別だからね」
和高は飛び跳ねて喜んだ。
「はあぁぁ……」
俺はぐったりしてアスファルトの上に胡坐をかく。
疲労と安堵がどっと込み上げる。
嵯峨野が小走りで去っていくとき、ポケットからなにかが落ちた。丸められたティッシュの塊だった。さっきのごみだ。
少女はそれを拾った。店の前にはごみ箱がある。さすがは嵯峨野の友人だ、ちゃんとしているんだな……と思った矢先。
彼女はあろうことかそれを広げた。こびりついた黄色いものに鼻を寄せる。
「嵯峨野くんの匂いだ」
和高はそう呟くとティッシュをむしゃむしゃ食べ始めた。
──んふふ、んふふふふふふふふふふふっ。
真っ暗闇のなかで、コンビニの灯りを受けた彼女は笑う。
「嵯峨野くんは変なファンが湧きやすいんだから私がついていてあげなくちゃ。私は絶対迷惑かけないからね。絶対絶対絶対絶対……」
両手を頬に当て、にたぁと口をゆがめる姿は、今晩見たどの霊よりも強烈だった。
「おまたせ、あれ、和高さんなにか食べてる?」
「お菓子」
と、和高は帰ってきた嵯峨野に言った。
「たくさんもらってるんだね。はい、これ」
「まりちもうお腹いっぱい!」
「えぇ~……」
その後、和高は上機嫌で帰っていき、嵯峨野は近くのファミレスへ入って朝まで時間を潰した。
俺はファミレスの屋根の上から通りを見下ろしていたが、日付が変わると町をうろついていたおかしなものたちは、ぱったりと現れなくなった。
後日、類に詳しく尋ねてみると「ハロウィンとはそういうものだろう?」という答えが返ってきた。
「僕が小さいころからずっとそうだ。イギリスにいたときも、他の国にいたときも、もちろん日本にやってきたあとも、毎年どこの町もあんな感じだ」
「そんなわけがあるか」
ハロウィンはアイルランドが発祥ではあるが、イギリス全体でもあまり盛り上がらないと聞いたことがある。
2024.10.29(火)