類は納得のいかない様子で腕を組んでいたが、軽く片眉を上げた。

「そうだ……そういえば祖父が認知症になる前は、『お前がいるとハロウィンが大盛り上がりだな』って笑っていたことがあったっけ……」

 御蔵坂類には霊感がある。美蔵堂にもいわくつきの品が妙に集まる。

 もしかしたら、彼は磁場でも狂わせているのかもしれない。

「しかし、君が嵯峨野くんを送ってあげたとは……意外だったな」

「たしかに……普段ならそんなことしないだろうが」

 だが彼には好印象を持ったのだ。あの素直さ、明るさ、美蔵堂へ見せた気遣い、そして本に対する真摯さ……。

 類は、腕を組んで静かに言った。

「なにもなかったなら、いいんだ」

 その口ぶりが妙にさみしげなのが少し気になったが、彼は仕事だと言って出かけていってしまった。

幽霊作家と古物商 黄昏に浮かんだ謎(文春文庫 さ 78-1)

定価 770円(税込)
文藝春秋
» この書籍を購入する(Amazonへリンク)

幽霊作家と古物商 夜明けに見えた真相(文春文庫 さ 78-2)

定価 792円(税込)
文藝春秋
» この書籍を購入する(Amazonへリンク)

2024.10.29(火)