この記事の連載
- マンガ家・松本あやかインタビュー
- マンガ『三ツ矢先生の計画的な餌付け。』第1話より
生殺与奪の権を握る「料理」という行為
――作中でも、料理をガツガツ食べる石田くんを三ツ矢先生がうっとり眺めるシーンがあります。無心で食べる姿は人を魅了しますよね。
そうそう、私も食べることより食べるのを見る方が好きかもしれない(笑)。一時期、大食い系のYouTubeを見るのにハマっていたんですが、食べる姿って理屈抜きで「生きてる!」って感じがして気持ちいいし、癒されるんです。
――タイトルの「餌付け」という言葉は「胃袋でハートを掴む」的な?
このタイトルは編集部に付けていただいたもので、、自分的には人に対して「餌付け」という言葉を使うのは、抵抗があったんです(笑)。
ただ、人に料理を作って食べさせる行為は、すごくセクシーですよね。若い頃に恋人に食事を作ってるときに、自分が作ったものがこの人の血肉になるって、生殺与奪の権を握ってるなと思ったんです。もしかして毒が入ってるかもしれないのに出されたものを素直に食べることは、よっぽどの信頼がないと成り立たない。
三ツ矢先生と石田くんも「食べさせる/食べる」ことを通して、最終的に相手に身も心も委ね合う関係になったので、「餌付け」というタイトルはアリだったなと思ってます。
――現実でも「食」を共にすることで、関係性がぐっと親密になることは多いですよね。
高校生の時、家に夕飯があるんだけど、部活帰りにあえて友達とカツ丼を食べて帰っていました(笑)。当時はうまく言語化できなかったけど、そうやって一緒にご飯を食べることで友達との安心感や信頼感ができてた。
――誰かと何かを食べた記憶は、他のことよりも鮮明に記憶に残っているものです。
食べることって記憶とセットになってますよね。落ち込んだ時に食べたあったかい麺類がすごく心に染みたとか、好きな子と一緒に学校帰りに食べたアイスは特別な味がしたなとか、今も強烈に記憶に残っている。
そういう意味でも「食」って人と人の関係性を描くために欠かせない。ヒューマンドラマが好きな自分には「食×BL」はすごくしっくりくるジャンルだなと感じています。
ガッツリ濡れ場と食事シーンは盛り上げ方が近い?
――現在連載中の『やたらやらしい深見くん』は、自意識の高いナルシスト男・梶と、モサイようで脱いだらエロい天然男子・深見くんの“いじっぱりBL”ラブコメディです。松本先生にとっては、初のベッドシーンありの本格BL作品ですね。
ベッドシーン、不安もありましたが、意外と描けたかも……? と我ながら思っています(笑)。もともと身体を描くのは好きなんですが、絡んだときに2人の足がどこの位置でどんな形なのか――みたいな画的な部分が難しくて。「BLの描き方」という本を買ってきて、人形でポーズを作って研究しました。
描いてみてわかったんですが、ベッドシーンってリズムが大事。顔のアップばかり連続しないようにカメラワークを変えて。見せればセクシーになるものでもないから、見えてる部分と隠れてる部分のバランスを探りながら、パズルみたいに組み立てていく。
――描いてる方は極めて冷静な、職人的な世界でもあるんですね。
ベッドシーンって実は食漫画と似ているところがあって、ストーリーの流れや盛り上げ方みたいなところが、すごく似てるんです。
2024.11.24(日)
文=井口啓子
マンガ=松本あやか