この記事の連載
- マンガ家・松本あやかインタビュー
- マンガ『三ツ矢先生の計画的な餌付け。』第1話より
『きのう何食べた?』『作りたい女と食べたい女』など、「食」を中心に多様な人間関係を描いたマンガ作品が人気を集めている。今夏、山崎まさよし主演でドラマ化されたグルメ×BLマンガ『三ツ矢先生の計画的な餌付け。』(ぶんか社)も、そんな作品のひとつだ。
料理研究家の三ツ矢歩と新米編集者の石田友也が「料理を作って食べさせる/食べる」ことを通して、互いを理解し関係を深めてゆく様を、繊細かつリアルな人間描写で鮮やかに描いた本作は「食」と「ヒューマンドラマ」の親和性の高さを、あらためて実感させてくれる。
作者の松本あやか先生は、もともとグルメ漫画を主戦場としていたが、本作で初めてBLマンガを描き、現在はBLスクリーモで『やたらやらしい深見くん』を好評連載中。「食」を描くことと「BL」を描くことに共通点はあったのだろうか? 北海道を拠点に活動する松本先生にリモートで話を聞いた。
「人間の本能に触れてるみたいでゾクゾクするわ」
『三ツ矢先生の計画的な餌付け。』あらすじ
若手編集者の石田友也は、慣れない女性誌で一時的に料理研究家・三ツ矢歩の連載を担当することになる。三ツ矢は同性愛者を公言しており、京都弁でひょうひょうとしたキャラクターが人気のタレント。緊張する友也だったが、原稿を受け取りに行くたびに振る舞われる三ツ矢の料理にすっかり胃袋と心を掴まれてしまう。石田の先生への気持ちは果たして「人として好き」なのか「恋」なのか……?
――『三ツ矢先生の計画的な餌付け。』はどのように始まったのでしょう?
ぶんか社の「マンガよもんが」という配信サービスでライトなBL作品を書いてみないかと声を掛けてもらったんです。「ライトBL」という括りさえあれば、好きなものを書いていいよと言われて、だったら自分がずっと描いてきた「食」を中心に据えて、そこに「年の差BL」や「ブロマンスバディ」といった自分の好みの要素を盛り込んで書いてみよう! と。
――松本先生自身、もともとBLがお好きだったんですね。
好きではあるんですが、いわゆるBLマニアとかでは全然なくて。よしながふみ先生や中村明日美子先生など、比較的メジャーなヒューマンドラマ寄りのBLが好きだったんです。商業作品として描いたのは『三ツ矢先生~』が初めて。
ただ、もともと自分の中でBLは特別なジャンルではなく、ヒューマンドラマのひとつであくまで人と人の話と考えていたので、身構えることなく描けたんだと思います。
――三ツ矢先生と石田くんというキャラクターは、どこから生まれたのでしょう?
NHK BSプレミアムで不定期放送されている『チョイ住み』(年の離れた芸能人やタレントが2人一組で海外でちょっとだけ生活を共にする番組)が好きなんです。三ツ矢先生と石田くんのキャラクター設定は、その影響があるかもしれません。
初対面に近い、一見重なるところがなさそうなふたりが一緒に食卓を囲むことで、相手のいろんな面を知って、たまに衝突しながらも距離を深めてゆく。そういう物語を同棲ドラマとはまた違った形で描きたい――というところから、料理研究家と編集者という設定も決まりました。
――三ツ矢先生が料理研究家という「食のプロ」ゆえ、作中には「食」に関する人生哲学的な台詞も多いです。「人間の本能に触れてるみたいでゾクゾクするわ」など、食や人の本質に迫る印象的な台詞が、作品全体に奥行きや深みをもたらしています。
やっぱり「食」も「性」も人間の三大欲求のひとつだし、意識してセクシーな要素を入れようとしなくても、食べることの本質について考えると自然と性的なことにも繋がってきてしまうと思うんですよね。
ただ、食べる表情をエロく描いた食漫画は私はあまり好みではなくて。「食」と「性」は密接に繋がったものだからこそ、安易なエロと混ぜたくはない。たとえば、料理をガツガツ美味しそうに食べてる人って全身で生きる喜びを感じてるみたいでセクシーですよね。そういう本能的な部分の方を私は描きたいと思っています。
2024.11.24(日)
文=井口啓子
マンガ=松本あやか