案の定、勝負はその一瞬でついた。
「……あんな奴が若宮殿下の側仕えなんて、世も末ってもんだな」
兄弟に慰められている姿を見るにつけ、どうにもならない苛々が募る。
ついつい愚痴っぽくなった市柳の言葉に、友人達があからさまに食いついた。
「あいつより、市柳さんの方がずっとふさわしいと思いますよ」
「お兄さんの方ならともかく、あれじゃ北領の面汚しになりかねねえもんな」
だよなあ、と市柳は心からそれに同意した。
雪哉が中央で宮仕えするということは、試合場に来てからも盛んに噂されていた。
そこで新たに聞いた話からすると、どうも、もともと若宮の側仕えになる予定だったのは他の貴族だったらしい。だが、そいつは平民と勘違いして雪哉と喧嘩し、おまけに怪我をさせてしまい、その罰でお役目を譲る羽目になったのだという。
平民だからと言って怪我をさせていいという道理は全くないし、その貴族は罰を受けてしかるべきだと市柳は思う。だが、雪哉を貴族ではないと勘違いするのも無理はないし、結局、雪哉の方が血筋が良かっただけで結末が全く異なってしまったというのは、なんとも気持ちの悪い話だと思った。
「でも、もしそうなると分かって貴族に喧嘩をふっかけたんだとしたら、あいつ、相当な策士だよな」
「怖いこと言うなあ」
「力はない分、頭を使って、とかさ。貴族にありがちな話だろ?」
友人達の言葉を、市柳は鼻で笑う。
「雪哉にそんな頭あるかよ。単に、運が良かっただけだろう」
友人達は、どうやら地方貴族に対して過剰な夢を抱いているらしい。そうかなあ、案外分かってやっているかもしれねえじゃんと好き勝手なことを言う。
市柳は、竹筒から水を飲みながら試合場を去っていく雪哉をちらりと見た。
「あいつ、母親の身分が高いらしいからな。もし、計算でそういうことが出来る奴なら、雪馬を追い落として自分が次の郷長になるくらいのことするんじゃねえの」
あり得ない話だけど、と市柳は吐き捨てる。
2024.10.22(火)