この記事の連載
- 入浴は、善か悪か? 清潔不潔の人間史【ヨーロッパ篇】
- 入浴は、善か悪か? 清潔不潔の人間史【日本篇】
入浴という行為が、悪の象徴だった国々と時代があった。「古代ローマ」から「風呂キャンセル」まで、美容の視点から、人類の清潔と不潔の歴史を読み解く。
極楽ローマ風呂は衰退…なぜ悍ましき不潔の時代へ向かったか
風呂文化を花開かせたのは、言うまでもなくローマ帝国。それこそ贅を尽くした巨大な公衆浴場はいわば一つの社交場。3,000人もの人を収容できる上に、既にサウナ的なものも。あらゆる娯楽から、ジムや図書館までと、現在のスーパー銭湯どころではない豊富な設備を整えて、利用者はそこで日がな一日過ごすという、成熟した文化を生み出していた。
大衆の心をつかむ政治的な戦略でもあったというから、それがローマ帝国とともに衰退するのは解るが、ヨーロッパ全土に広がっていた風呂文化が結局衰退し、わざわざ暗黒の不潔史に突入するのはなぜなのか?
ローマ風呂が混浴だった時代、必然的に風紀が乱れ、売春婦などが出入りするようになった。そのため、後期には男女別浴が増えるものの、社交場という役割からどうしても退廃的になっていく。
そもそもそうしたリスクを孕む公衆浴場それ自体を否定したのが、ローマ帝国崩壊後に力を増す“キリスト教会”だったのだ。
2024.11.18(月)
文=齋藤 薫(美容ジャーナリスト)