担当編集への「ドッキリ」で始まった連載

——読み切り作品を経て、初の連載作『夏の終点』を立ち上げた経緯は?

西尾 読み切りのネームの打ち合わせに、いきなり『夏の終点』の第1話のネームを持っていったんです。ドッキリを仕掛けるみたいに。

——そのネームを受け取って、編集者としてはどう思いましたか?

同席中の「少年ジャンプ+」担当編集(以下、担当編集) すごく面白いと思いましたがまだ読み切りの経験も浅く、いま連載会議に出しても通らないかもしれないと不安でしたね……。

——だそうですが……。西尾先生としては、ストーリーはどのような着想から? 学生生活の思い出が反映されているのでしょうか。

西尾 いや、こんな学生生活は過ごしてないです(笑)。おとなしい女の子が静かに恋する物語は、憧れというか理想みたいな。

——自分の好きな世界を描いたという感じでしょうか。

西尾 描きたい風景が先行することもあります。そもそも、夏が描きたかったからできた作品ですね。夏の雲とかが描きたくて、そこからイメージが広がっていったと思います。

——夏が好き?

西尾 暑いのは全然好きじゃないけど、夏の持つノスタルジックな感じが好きです。

 はじめから結末をどうするかは決まっていました。最終回を描きたかった。それがあっての話です。

——それまでの読み切りと比較して、明確に「恋愛」が前に出た作品ですね。

西尾 連載会議を通すには、恋愛くらいしかないかなと思って(笑)。話自体は自分でもふつうだと思います。マンガって、話はふつうでいいんじゃないか、大事なのは見せ方だという考えがあります。

「編集部に衝撃が走った」表紙について

——『夏の終点』は、この花だけの表紙にも驚きました。表紙は西尾先生のご提案だったんですか?

西尾 そうですね。花が描きたかったというか、人を描きたくなかった。少しは「変なことしてやろう」みたいな気持ちもあったと思いますけど。キャラじゃなく風景とかを描いて読者の想像力をかきたてるみたいなことをしたかったんです。

——それで、花になったんですね。編集部の反応は?

担当編集 編集部では衝撃が走りました。その月に発売のコミックスが編集長の机の上に並ぶのですけど、一冊だけ小説がまぎれこんだみたいに異彩を放っていて。

——今は小説でも人物がいないカバー絵は珍しいのでは?

 担当編集 「上巻は譲るけど、下巻は人を描いてもらうからね」と約束したんですが、結局下巻もお花の絵が先生から上がってきて。でもとても素敵だったので、下巻もそろえて花でいこうと話しました。

西尾 そうでしたっけ? でも、単行本のデザイナーさんも「お花、いいですね」と言ってくれたんですよ。

2024.10.26(土)
文=粟生こずえ