朝ドラは失いかけた信用を取り戻した

 日本ではじめて女性の弁護士・判事・裁判所所長となった三淵嘉子さんをモデルにした『虎に翼』の主人公・猪爪寅子(のちに佐田寅子)は、1914年(大正3年)、海外勤務も経験したエリート銀行員である父の長女として生まれた。少女の頃から聡明で弁が立ち、なぜいまの社会は男女が不平等なのか疑問に思う。結婚した女性は「無能力者」とされ、家事を夫に代わって取り仕切る以外に、自分で選択して行動できないと法で定められていることを知った寅子は、「結婚は罠」だから結婚なんかするものかと思うようになる。

 

 運良く時代は法改正の気運が高まった頃、それまで男性だけのものだった法律の世界に女性も参加できるようになり、寅子は法を学びはじめる。そこで出会ったのは同じ志を持つ女性たち。きれいな着物を着た賢い女子学生たちが、美味しい甘味屋に集い、社会変革を語り合う。麗しき女性の連帯、そこには希望が満ちていた。

 寅子たちがまず目の当たりにしたのは離婚裁判。嫁入り道具として妻が持ってきたものまで、離婚の際に夫の財産とする法律に憤慨する。裁判では、妻が夫に大事な着物を奪われることは回避されたが、法で決められたことだからと理不尽な目に遭う人たちがいる事実は変わらない。かくしてドラマの序盤は、男女平等、日本と外国の関係(朝鮮との関わり)などにおいて、法律が必ずしも絶対ではないことを寅子は痛感する。さらに、収賄事件である帝人事件をモデルにした共亜事件では、国家と銀行の癒着が暴かれた。

 それらのエピソードを見て『虎に翼』は攻めているドラマだと視聴者は沸いた。ジェンダー平等にまつわるエピソードや実際にあった事件をよくぞ取り入れてくれたと多くの視聴者に支持された。2年前、『ちむどんどん』(22年度前期)を見た意識の高い視聴者たちが一斉に批判にまわったこととはまるで逆の光景だった。朝ドラは『ちむどんどん』で失いかけた信用を取り戻したのである。

2024.10.14(月)
文=木俣 冬