有働 もちろん今のお考えも素晴らしいですが、40代の頃の感情も愛おしいですね。頑張って上に行きたいからこそ思うわけですから。

 大石 そうですね、その頃の、がむしゃらな自分もかわいいです。

 有働 視聴率は気にしますか?

 大石 気にしないことはないですが、視聴率がどうであろうと、信じた道を最後まで突き進める力強い台本であるかどうか、それを常に自分に問いかけます。脚本・台本は文字通り作品の脚となり、土台となるもの。私が作る土台がしっかりしていなかったら、チームの士気も上がらないですから。

 

「やりたい放題でもいいんじゃない?」

 有働 脚本は1話書いたら「これは自信あり」と思えるものですか。

 大石 そんな訳ないでしょう。毎回泣きそうに不安です。

 有働 何が不安なんですか?

 大石 完璧なものはないですから。アナウンサーだって、そんな感じじゃないんですか?

 有働 自信があるときなんて、1回もないですね。

 大石 でしょ。だから、私に足りないところがあれば、スタッフみんなの力でいいものにして欲しい、という気持ちで書いています。ドラマの哲学は台本に込めなきゃいけないけど、あとの料理はみんなで上手いことやってねという気持ちです。

 有働 出来上がった作品を見て、「あれれ?」って、ガッカリしちゃうことはないですか?

 大石 あります! だけどあれこれ諦めながら、違いを楽しむ心がないと、この仕事は出来ません。

 有働 楽しめるものなんですか。

 大石 「この野郎〜」と思うこともありますよ。でも「ああ、見事に素敵にしてくれた!」ということも、もちろんあるので頑張っていけます。ドラマ制作では、100人のチームで、みんなで力を合わせて料理をする。そこが脚本家の小説家と似て非なるところであり、仲間がたくさんいるのが楽しいんです。

 有働 『光る君へ』の舞台である平安の世は、それこそ不倫だらけの時代じゃないですか。でも今は、不倫のフの字でも出た人はテレビにすぐに出演できなくなりますよね。

2024.09.23(月)
文=大石 静,有働 由美子