高橋一生さんとの出会いをきっかけに……

――俳優としてのご自身の個性は、どんなところにあると思いますか?

 役を演じる上では、個性は逆にないほうがいいのかなと思っていて。僕が目指しているのは「馴染む」こと。その作品の色や世界にどう馴染めるかが、ずっと僕のテーマです。もちろん作品によるとは思いますが、『マーキュリー・ファー』で共演した高橋一生さんとの出会いをきっかけに、そう考えるようになりました。

――瀬戸さんは常々、ご自身のことを「ポジティブ」だとおっしゃっています。それはもともとの性質だと思いますか? それとも環境によって育まれてきたもの?

 ずっとポジティブかと言われたら、そうではなくて。上京したての頃は子どもだったし、すごく大人が怖かったんです。福岡から出てきて、標準語も喋れないし。いろんなことをマイナスに考える思考になっていた自分がすごく嫌でした。なんか負けてるような気がしたので、無理やり笑ったり、面白いものを見たりしたこともあります。

 ただ、自然に囲まれた福岡の田舎で育ったので、それによって心が豊かになったとは思います。福岡って博多祇園山笠があったり、お祭りが盛んです。河童の伝説があるうちの地元にも祭りがあって、子どもの頃からお祝い事に積極的に参加していたので、ハッピーなメンタルが育まれたのかもしれません(笑)。

半径数メートルの人を幸せにできたら

――家族という少し狭い範囲ではいかがですか? 今の瀬戸さんは、ご家族の中でどのように形成されていったのでしょう?

 親が共働きだったので、子どもの頃から「親が大変だから手伝いをしなきゃ、お兄ちゃんとして頑張らなきゃ」みたいな気持ちは強かったかもしれません。1個下の妹と一緒に、4個下の妹を保育園に送り届けたりもしていました。精神面で大人になるのは早かったかもしれませんね。

 親から叱られた記憶があまりなくて。勉強も含めて、選択を委ねてくれたことも大きかったです。塾に通うのも、部活に入るのも、すべて自由に決めさせてくれました。まあ、もしかしたら僕らが気づかないうちに親にうまく誘導されていたのかもしれないけど(笑)。ありがたい環境だったなと思います。

――インスタグラムでは、「どうやって生きていくか、幸せに人生を送れるかは自分次第」と発信されていました。瀬戸さんが思う幸せな人生とは?

 まずは自分が幸福であること。そして身近な人が幸せであることですかね。もちろん世界中の人の幸せを願うけど、自分一人でできることは限られていますから。半径数メートルの人を幸せにできたらと思っています。

――では、ご自身を幸福にする方法は?

 本当は絵とかも描きたいけど、今はそれよりセリフを覚えなきゃいけなくて。稽古場へ向かう車で聞くラジオが唯一の気分転換だったけど、今では車の中でもセリフをずーっと言っています。舞台の稽古中は考えなきゃいけないことも多いし、やっぱり苦しい時期なんですよ。

 好んでやっている仕事とはいえ、やっぱり辛いときは辛い。ずっと気持ちよく幸せに過ごしたいけど、今は生みの苦しみに向き合っています。ただ自分が苦しんだ分、その先には必ず「ハッピーなことが待ち受けている」と信じてやっています。それがメンタルを保つ方法かもしれません。

瀬戸康史(せと・こうじ)

1988年5月18日生まれ、福岡県出身。2005年にデビュー。近年の主な出演作はドラマ『ルパンの娘』シリーズ、『私の家政婦ナギサさん』、『院内警察』、『くるり~誰が私と恋をした?~』、映画『愛なのに』、『違国日記』、舞台『関数ドミノ』、『23階の笑い』、『日本の歴史』、『世界は笑う』、『笑の大学』など。映画『スオミの話をしよう』が9月13日公開。

Bunkamura Production 2024/DISCOVER WORLD THEATRE vol.14
『A Number―数』『What If If Only—もしも もしせめて』

作:キャロル・チャーチル
翻訳:広田敦郎
演出:ジョナサン・マンビィ
美術・衣裳:ポール・ウィルス
出演:堤真一、瀬戸康史/大東駿介、浅野和之 ほか

2024年9月10日(火)~9月29日(日) 世田谷パブリックシアター
2024年10月4日(金)~10月7日(月) 森ノ宮ピロティホール
2024年10月12日(土)~10月14日(月・祝)キャナルシティ劇場


https://www.bunkamura.co.jp/cocoon/lineup/24_churchill/

2024.09.10(火)
文=松山 梢
撮影=佐藤 亘
スタイリスト=田村和之
ヘア&メイク=小林純子