八島 小池幸子ですね。勤続62年になります。我々からするとお母さんみたいな存在で、この9月で引退が決まり、とても残念です。小池の上には先輩で師匠のような竹谷年子というライト館でマリリン・モンローの接客をした、伝説の客室係がいました。

 

角田 すごいエピソードですね。今日もロビーで花の手入れを、第一園芸の若い方とベテランの方、二人の女性が一緒になさっていて、胸がきゅんとしました。

八島 社員だけではなく、帝国ホテルを支えて働いてくれる方たちにも光を当てていただき、私も何度も胸をうたれました。最終回はご自身がモデルでいらっしゃるかのように感じました。

角田 モデルではないのですが、作家にとって一番身近なホテルは授賞式なのです。二十歳の時に集英社が主催する賞の第一回柴田錬三郎賞の授賞式をのぞきに来たときがありました。当時、集英社で少女小説を書いていて、「授賞式をやっているから見に行こう」と誘われて仲間何人かと編集者に入れてもらって「わー、すごい!」と圧倒されたのが帝国ホテルでした。それから二十何年か経って私が『紙の月』という小説で柴田錬三郎賞をいただいた時も授賞式は帝国ホテルで、受賞の挨拶で二十歳の時にのぞきに来た時の話をしました。

――ちょうどこの連載の第1回目を書きあげられたタイミングですね。

八島 そんな深いご縁があったのですね。『源氏物語』でも読売文学賞を受賞され、帝国ホテルでの授賞式には紫の御着物でいらっしゃったと伺いました。

 1000年の伝統を持つ『源氏物語』には及びませんが、帝国ホテルは今年、ライト館開業100周年を迎え、3年後には、大阪開業以来、30年ぶりに帝国ホテルブランドの新しいホテルが京都にできます。タワー館が2024年の夏から、つづいて本館が建て替え工事に入り、2036年に完成します。この本館の場所に、地下から最上階まですべてホテルとして使用するグランドホテルを2036年めざしてつくる一大プロジェクトです。

角田 建物が変わっても、これまで変わらずに受け継がれてきた帝国ホテルらしさは、変わらないでしょうね。連載が終わって寂しいけど選考会と授賞式で来続けますので、これからもよろしくお願いします。

八島 この連載は、一回一回がまさに帝国ホテルの歴史の一頁になっているような、我々にとってたいせつなことがすべて盛り込まれた連載です。帝国ホテルの財産として継承していきたいと思います。ありがとうございました。

あなたを待ついくつもの部屋

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文藝春秋
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2024.08.03(土)
文=IMPERIAL編集部