角田 大変でした、本当に! 東京・大阪・上高地の3か所を交互に舞台にするという年に4回の連載で、原稿を書き終えて送信すると、折り返し編集者から確認に添えて、次号はどこを舞台にするか連絡がきます。何を書いたら良いか、とにかく思いつかないんです。思いついてプロットが決まれば、2~3日で書き上げるのですけれど……。
八島 ご苦労おかけいたしました! 連載前には取材で3か所宿泊なさったそうですね。
角田 ええ。1泊ずつと短い時間でしたが、3か所とも個性が違って、私にとって東京は特別な場所、大阪は旅先のホテル、上高地は想い出が大切にしまってある場所というイメージです。東京は文学賞の選考会や授賞式でたびたび行きますが、泊まったことはありませんでした。大阪の取材は桜の頃で、造幣局の桜の通り抜けや近くの天満宮のアーケードに行きました。ホテル内では空が見えるプールが素敵でしたね。上高地は、マイカーで行けない場所が日本にまだあるんだ! とか、スタッフの皆さんが全員、寮に入っている!と驚きました。ホテル周辺の散歩が楽しかったです。
八島 アップダウンがなくて歩きやすいですからね。上高地は私も入社時に行き、4か月間、寮暮らしでしたが、まだ2人部屋でした。
角田 連載の2回目で上高地の携帯圏外を題材に「月明かりの下」を書いたのを思い出します。
八島 ちょっと神秘的でロマンチックな話でしたね。10年経って、いまは上高地の電波状況は改善されて、寮も一人部屋になっています。
角田 それは良かったです(笑)。
帝国ホテルの見えないドラマ
角田 連載で、一番のヒントになった資料は、「さすが帝国ホテル」でした。
八島 1999年に始めたスタッフの働きぶりを表彰する「さすが帝国ホテル推進活動」の記録ですね。
角田 はい。ちょうど連載も20回になったとき、前任の金尾幸生さんにご紹介いただきました。いろいろなセクションのスタッフの方の、お客さまには気がつかないエピソードがたくさんあって、読んでいて泣けてくるくらい感動しました。どこで落としたかわからない物をすばらしい連携プレイで探し当てたこと、エレベーターのバラ、ランドリーの時間厳守の話、具合の悪くなった方をホテル前で見つけて救急車に乗せたことなど、こんなにドラマがあるんだ、と感動しました。
2024.08.03(土)
文=IMPERIAL編集部