八島 なるほど、連載で思い当たる回がありますね。24回「忘れものの重さ」や、23回「ジャズと幽霊」のルームサービスのお辞儀のことも……。

 

角田 そうです! ドアが閉まってもスタッフがお辞儀をしているなんてお客さまは知りえないことです。「さすが帝国ホテル」を読んでから5年がたち、できることなら連載を続けたかったのですが、さすがに11年で一区切りとさせていただくことにしました(笑)。

編集担当 締切りを必ず守って下さって、本当にありがたかったです。

角田 本当に、本当にね、大変だったんですよ(笑)。

文学賞の授賞式を帝国ホテルで

――角田さんにとって足かけ11年の連載は最長記録でしょうか。

角田 小説の連載ではいちばん長いですね。2015年から5年間は『源氏物語』の新訳を手掛けていて、他の小説をいっさい書けなかったんです。その中で唯一書いていたのがこの「IMPERIAL」の連載でした。

八島 それは光栄です。

角田 帝国ホテルは、自分にとってまったく知らない世界です。自分の実生活とは関わりの無い方のことを考えることが苦しくもあり、楽しくもありでした。

八島 帝国ホテルのお客さまと一言にいっても、利用される目的はそれぞれ異なります。「亡きお父さんを偲んで」と写真を飾ってお泊まりになる方も実際にいらっしゃいます。4月に東京総支配人に着任したとき、「十人十色とよくいうけれど、私は一人十色だと思っている。同じお客さまでもタイミングによって心地良いと感じるサービスは異なる。どう寄り添えるかは、とても難しいのだが、同じサービスは一つとして存在しない。そういう想いで仕事をしてほしい」と挨拶をしました。それをわかってもらうには最適の教科書です。

角田 畏れ多いです。帝国ホテルはとても人間らしいのです。ラグジュアリーなホテルは、ときおりサービスが事務的に感じることもありますが、帝国ホテルは人間らしいあたたかみを感じます。いまおっしゃったような、マニュアルではなくお客さまを見なさいという気持ちがある。それが帝国ホテルの個性だと思います。80代で現役の客室係の方もいらっしゃるのですね。

2024.08.03(土)
文=IMPERIAL編集部