ノンフィクションか、フィクションか?
最近の風潮として思うのが、ノンフィクションかフィクションかは受け取り手にとっては大きな問題ではないということ。大森時生さんが作る番組にしても、背筋さんや梨さんの作品にしても、完全なるフィクションなんです。でも、その手触りのリアルさはフィクション以上。あたかもノンフィクションであるかのように感じさせていますよね。
土台となるフィクションをしっかりと作り上げて、リアルな盛り付けをしていく手法です。
――「本当」でなくても、むしろリアルな恐怖を味わえるんですね。
そうです。作っている彼らも、受け取る視聴者や読者も、実話であるかどうかにはまったくこだわっていない。ちなみに私はずっとこだわっています(笑)。
一方で、いくら背筋さんや梨さんが「これはフィクションです」と注意書きをしても、「いや、本当だ」という読者が現れるんですよ。
――それがさらに恐怖を助長します……。わかりやすいのが、本の中でも多く語られている、遺された映像などを発端にストーリーが展開する形式の「ファウンド・フッテージ」でしょうか。
モキュメンタリーの一種で、昔からあったホラーの手法ではありますが、若い世代にとっては新鮮なのかもしれない。同時に、大森時生さんが本の中で語っているようにTikTokのような切り抜きと相性がよくて、感度の高い人たちに一気に広まる、というのは新しい傾向です。その広がり方が「感染」や「伝播」を想起させて、これがまたホラー好きにはたまらないんです。
――新しい広まり方を見せているわけですね。さっきの例のように“「いや、本当だ」勢”の言い分も広がっていくから恐いのかもしれません。
そうです。ファウンド・フッテージの使い方や、フェイクドキュメントの表現も、これからたくさんの新しい方法やひねり方が出てくるでしょうね。それがクリエイターのみなさんの腕の振るいどころ。
――例えば、ガジェットになりますが、仮想現実(VR)とか。
VRの世界で繰り広げられるフェイクドキュメンタリーは当然出てくるでしょうね。その辺は、プロの方にお任せして楽しみたいと思います。
一方で、実話怪談界では既に怪談イベントには持ち込まれているんです。私もアーカイブ動画を鑑賞したことはありますが、VRゴーグルは持っていないので実際のVR体験をしたことはなくて(笑)。
私は車座になって仲間とぽつりぽつり話す“怪談会”がいちばん好きなんですけれど、そんなノスタルジックな風景もテクノロジーによって多くの人に空気ごと伝えられるようになるのかもしれません。
――本にもありましたが、留守番カメラや車載カメラも普及していますし、新しい恐怖の表現は恐いけれど楽しみです。
2024.07.27(土)
文=ライフスタイル出版部
撮影=佐藤亘