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「書く」モチベーションになるものとは?

塩谷 あとはやっぱり、本という実態を伴うことによって、宝物にしてくださる人もいる。以前、友人が私の本にボロボロになるまで沢山書き込んでくれていたんだけど、それがあまりにも嬉しかったからそのまま新品と交換させてもらったんです。

岡本 えっ、すごい。新品と交換したんだ(笑)。

塩谷 うん、あまりにも嬉しくて……。文章を世に出すことって自分が試される行為でもあるけれど、リアルタイムで反応が来るわけではないし、ときに孤独を感じてしまうでしょう。でもこだわって書いた細部に線が引かれていたり、受け止められたときの感想が書かれたりした本をこの目で見ると、受け止めてくれる人がいるのだと励まされる。

岡本 感想は本当に、次に書くもののモチベーションになりますよね。

塩谷 うん。勇気を出して、恥ずかしくても不格好でも、まずは言葉にしてみて、それが誰かに届いたときに、小さくても社会は動き始めるんですよね。そのダイナミズムを感じ始めると、また書くための勇気ももらえる。もちろん書くこと自体が苦しみを伴ったり、困難を招いたりしてしまうこともあるけど、私はそれ以上に書くことによって広がる豊かな世界に魅了され続けているんです。

岡本 私たちは書くスタイルも言葉にするための動機も違うけど、共通して言えるのは、まず書くことですよね。表現って一人で書くだけのものではなくて、誰かに受け取られて成立するものだなとも思う。書きたい、表現したいと思っていらっしゃる方がいるとしたら、まずは粗くとも書いてみてほしい。そして世に出すのでも良いし、友達に読んでもらうのも良いし……とにかく、書き続けていきましょうということですね。

塩谷 そこは今日話した中で、数少ない共通点だったね。同世代で、SNSを中心に活動している私たちですらこんなに違う。今日は書くという行為の多様な在り方をそれぞれの立場から伝えることができて、私にとっても本当に面白い時間でした。ありがとうございました。

岡本 ありがとうございました!
(下北沢B&Bにて)

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塩谷 舞(しおたに・まい) 

文筆家。1988年大阪・千里生まれ。京都市立芸術大学卒業。大学時代にアートマガジン『SHAKE ART!』を創刊。会社員を経て、2015年より独立。2018年に渡米し、ニューヨークでの生活を経て2021年に帰国。文芸誌をはじめ各誌に寄稿、note定期購読マガジン『視点』にてエッセイを更新中。総フォロワー数15万人を超えるSNSでは、ライフスタイルから社会に対する問題提起まで、独自の視点が人気を博す。著書に『ここじゃない世界に行きたかった』(文藝春秋)。


岡本真帆(おかもと・まほ)

歌人。1989年生まれ。高知県、四万十川のほとりで育つ。第一歌集に『水上バス浅草行き』(ナナロク社)。第二歌集『あかるい花束』(ナナロク社)を2024年3月刊行。共著に『歌集副読本『老人ホームで死ぬほどモテたい』と『水上バス浅草行き』を読む』(ナナロク社)、『うたわない女はいない』(中央公論新社)がある。

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2024.07.06(土)
写真=山元茂樹