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 新著『小さな声の向こうに』が話題のエッセイスト・塩谷 舞さんと、同時期に第二歌集『あかるい花束』を刊行した歌人・岡本真帆さんの白熱トークライブ。「書いて生きていくための創作術」がいよいよ明かされます。


朝型か、夜型かで“浮上するもの”はまるで変わる

塩谷 物書きにとって、朝型か、夜型かで作風って大きく変わってくると思うんです。まほぴは朝に書くことが多いんだよね。

岡本 うん。平日は会社員なので、始業前の2、3時間を集中して創作するための時間に充てています。あとは生活の中で「あっ、歌にできそう」と思ったらスマホにメモしている。でも『小さな声の向こうに』を読んでいたら、塩谷さんにとっての文章を書く行為って、もっと儀式的なものなのだろうな、と感じたんです。書く場所や心を整えてから、祈るように書いている。

塩谷 まさに仰るとおりで、こうやって日中にお喋りするだけでは、伝えられないことや、取りこぼしてしまうことが沢山あると感じていて。そうした小さな後悔や違和感に、夜に一人で文章を書くことで向き合いたいんです。だから、静かな音楽を流したり、蝋燭に火を灯したりして、内側に集中できる環境を整えてから書くことも多い。

岡本 そうやって表現の手段が違うと、自分の心の中にあるものの、表面に浮上してくる部分がまるで変わってくるよね。

わかりやすく分類できない「夜の言葉」の世界

塩谷 私の前作『ここじゃない世界に行きたかった』の文庫版に哲学者の谷川嘉浩さんが解説を寄せてくださっているのですが、そこで「塩谷さんは夜の言葉を書く人」と評してくれていたんです。谷川さん曰く、私はかつては「バズライター」とも呼ばれて昼の言葉を扱っていたけれど、今はもっと曖昧で、わかりやすく分類できない「夜の言葉」を扱うようになったと。言葉の性格としての昼と夜……という意味ではあるのですが、実際に私が書くことに没頭できているのは、ほとんどが夜。

 昼は自分の中にある社会性が勝ってしまうけど、夜だとなんのブレーキもかけず、感性を優位にして書くことができるし、そうやって曖昧な感情に言葉をあてていくプロセスがとても好きなんですよね。ただそうやって、ときに泣きながら書いたような原稿を次の日の朝に確認すると、途端に恥ずかしくなるんだけど……。

岡本 あぁ、夜にラブレター書かないほうがいい、というやつだ。

塩谷 そう。「ごらんよ原稿、これが朝だよ」※と(笑)。夜に書いた原稿は真っ裸の状態だから、そのまま公に出すにはあまりにも心許ない。でもそこには確かに魂のようなものが存在しているから、なんとかそれを生かしてあげたい。だから朝になってから服を着せてあげて、読んでもらうための身支度をするんです。感性だけで書き殴るのではなく、関連する社会現象について併記したり、データを補ったりすることで、真っ裸だった文章が次第に社会性を帯びたものになっていく。

※『水上バス浅草行き』より「平日の明るいうちからビール飲む ごらんよビールこれが夏だよ」をもじった発言

2024.07.06(土)
写真=山元茂樹