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生きる上で、自分の欲を知り技を磨いていく

岡本 書くときの姿勢が私とは違うな、と興味深く読んでいたんです。私が短歌を詠む上でのモチベーションは、「逆上がり上手くなりたいな」というような気持ちに近くて。

塩谷 逆上がり! 私は先に社会に対して言いたいことがあって、そのために言葉を道具として使い始めたところがあるから、書くまでの動機もまるで違いますね。

 今日のテーマは「書いて生きていくための創作術」なんだけど、「生きて」という言葉には生業とする、つまりお金を稼ぐという意味も込めているし、文字通り「生きる」という意味でもある。そうした2つの意味のうち、短歌という表現手法は特に後者との相性が良いんじゃないかと感じています。まほぴの言う「逆上がりが上手になりたい」というような欲求を満たせる機会って、大人になるとどんどん減ってしまう。でも生きる上で、自分の欲を知り技を磨いていくことって、とても大切なこと。そうした欲求をしっかり形にできているのは、とても健やかに生きているように思うんです。

岡本 そんなことないよ……と言おうかと思ったんですけど、確かに健やかかもしれない。今日も、朝4時50分くらいに起きました。

塩谷 私は夜型なので、そこも真逆だ(笑)。後半では、お互いの執筆スタイルについてもう少し詳しく話していきたいです。

小さな声の向こうに

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あかるい花束

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塩谷 舞(しおたに・まい) 

文筆家。1988年大阪・千里生まれ。京都市立芸術大学卒業。大学時代にアートマガジン『SHAKE ART!』を創刊。会社員を経て、2015年より独立。2018年に渡米し、ニューヨークでの生活を経て2021年に帰国。文芸誌をはじめ各誌に寄稿、note定期購読マガジン『視点』にてエッセイを更新中。総フォロワー数15万人を超えるSNSでは、ライフスタイルから社会に対する問題提起まで、独自の視点が人気を博す。著書に『ここじゃない世界に行きたかった』(文藝春秋)。


岡本真帆(おかもと・まほ)

歌人。1989年生まれ。高知県、四万十川のほとりで育つ。第一歌集に『水上バス浅草行き』(ナナロク社)。第二歌集『あかるい花束』(ナナロク社)を2024年3月刊行。共著に『歌集副読本『老人ホームで死ぬほどモテたい』と『水上バス浅草行き』を読む』(ナナロク社)、『うたわない女はいない』(中央公論新社)がある。

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2024.07.06(土)
写真=山元茂樹