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「緑のライン」を最後に描いた日は?

 シャオシャオの体には、安全なマーカーで緑色のラインが描かれていました。夜間の録画映像などで双子のレイレイ(蕾蕾)と区別しやすくするためです。

 直接飼育が終わり間接飼育になってからは、柵越しに飼育係がエサでシャオシャオの注意を引いている間、別の飼育係が柵の間から手を入れてラインを描きました。ラインを描く間、シャオシャオが嫌がったことや、シャオシャオが暴れてラインがずれたことはないそうです。

 緑のラインは、シャオシャオが生まれた2021年6月23日から描かれてきましたが、今年3月26日(火)を最後に描かれていません。レイレイとのじゃれ合いが激しくなって、4月中旬から別々に暮らすことになり、区別する必要がなくなったためです(参照:上野動物園で暮らす双子パンダが2歳で離ればなれに。シャオシャオのトレードマーク「緑のライン」は!? )。今年6月20日(木)時点で緑のラインはうっすらと残っています。

 双子が別々になり、暮らす場所が一部変わったため、時期によっては屋外でシンシンと隣同士になります(5月以降、シャオシャオとレイレイの場所は数週間おきに入れ替えていて、現在はレイレイがシンシンの隣の屋外エリアを利用)。パンダは単独で生きる動物。昨年3月に親離れした双子がシンシンを見た場合、何も起きないかもしれませんが、成長や独立に差しさわりがある可能性もゼロではないので、上野動物園はでき得る範囲で対応しようと、間に目隠しを設置しました。

 ただ、やぐらの上は、目隠しの位置より高くなります。筆者が観覧エリアから眺めていると、やぐらの上に登った双子から、シンシンのいる屋外エリアが視界に入っているように見えました。双子からシンシンは見えているのか上野動物園に確認したところ、「見えていると思います。実際に、シャオシャオはシンシンの存在を認識して、扉の前に居座ることがありました。しかし、今のところは採食や休息、行動に影響は見られておらず、独立への影響はないと判断しております」(担当者)とのことです。

 メスのレイレイは母親に似て、丸顔に近い輪郭。「目と鼻が顔の中央に寄り気味です。とにかく食べることが大好き。いったんエサを食べ始めると、なかなか動こうとせず、『隣の部屋に新しい竹があるから、そっちで食べなよ』と飼育係が言っても、動いてくれないこともあります」。

 双子の姉のシャンシャンは上野動物園にいた頃、「基本的に穏やかな性格でした。攻撃的になったというのは飼育係から聞いたことがありません。その一方で、聞き慣れない音などには少し神経質なところがあって、全ての行動が止まってしまうことがありましたね」。

 繁殖に向け、5歳で中国へ渡ったシャンシャンは今年6月12日(水)、7歳になりました。渡航期限はコロナ禍で5回延期されましたが、本来は、東京都と中国野生動物保護協会の協定で満24か月齢時の渡航が定められており、都と同協会の協議によって、2020年12月末が期限となりました。この期限の時、シャンシャンは3歳。シャオシャオとレイレイの渡航期限は「中国野生動物保護協会と協議して決めます」(東京都建設局の担当者)とのことで、まだ明らかになっていませんが、2頭は6月23日(日)に3歳の誕生日を迎えます。

中川 美帆 (なかがわ みほ)

パンダジャーナリスト。早稲田大学教育学部卒。毎日新聞出版「週刊エコノミスト」などの記者を経て、ジャイアントパンダに関わる各分野の専門家に取材している。訪れたパンダの飼育地は、日本(4カ所)、中国本土(12カ所)、香港、マカオ、台湾、韓国、インドネシア、シンガポール、マレーシア、タイ、カナダ(2カ所)、アメリカ(4カ所)、メキシコ、ベルギー、スペイン、オーストリア、ドイツ、フランス、オランダ、イギリス、フィンランド、デンマーク、ロシア。近著に『パンダワールド We love PANDA』(大和書房)がある。
@nakagawamihoo

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2024.06.22(土)
文・写真=中川美帆