この記事の連載

 東京で親子4頭のジャイアントパンダを飼育する上野動物園。このうち2頭は最近、高血圧が判明したり、吐き戻しをしたりしました。普段の健康管理以外で、どのように対応しているのでしょう。

 『CREA』2024年夏号 のBook in book「偏愛パンダ図鑑」で紹介しきれなかった内容を中心にお伝えします。


 お腹の白い毛を刈られ、ピンク色の肌が見える18歳のオスのリーリー(力力)。4月23日(火)に上野動物園を訪れると、このようなリーリーの姿が目に入りました。驚きの声をあげる観覧者もいます。でもリーリーはいつも通り竹をよく食べ、元気に歩いていました。

 毛を刈ったのは、吐き戻しをしたリーリーを詳しく検査するためです。上野動物園の記録によると、最初の吐き戻しは2018年の夏。その後は、たまにペッと吐いたり、続けて吐いたりと、一定ではありませんでした。

 昨年1年間で、吐き戻した回数と吐きたそうにした回数は計13回。吐きたそうにした回数も含めるのは、モニターでの観察から、明確に吐いたか判断しづらいケースがあるためです。

 今年は5月8日(水)時点で2回の吐き戻しが確認されました。1年間の3分の1が終わって2回のため、単純に掛けると1年間に6回で、昨年の13回から半減。でも安心はできず、「注意深く見守っているところです。ご覧の通りリーリーは元気なので、元気なうちに検査をしておくことにしました」。上野動物園の副園長兼教育普及課長を務める冨田恭正さんはこう語ります。

 検査をしたのは休園日の4月22日(月)。パンダ舎で麻酔をかけたリーリーを車にのせて、園内の動物医療センターに運び、腹部、胸部、右の前肢、左右の後肢の毛をバリカンで刈りました。そして、超音波(エコー)、CT(コンピューター断層撮影装置)、内視鏡で検査を実施。採取した血液による精密検査もしました。

 超音波検査では、人間と同じように検査用のゼリーを使います。今回はプローブ(超音波検査機器で体にあてる部分)の先にゼリーを塗りました。CT検査も人間と同様の方法で行いました。上野動物園でパンダのCT検査をしたのは今回が初めてです。なお、MRI(磁気共鳴診断装置)は園内にありません。

 4月22日(月)のリーリーの検査には、中国ジャイアントパンダ保護研究センターの獣医師、楊 海迪(ようかいてき)さんも立ち会いました。楊さんは、神戸市立王子動物園で心臓疾患がみつかり、3月31日(日)に息を引き取ったメスのタンタン(旦旦)のため中国から来日中でした(5月末に帰国)。

 検査を終え、車でパンダ舎に戻ったリーリーは問題なく麻酔から覚醒。いずれの検査においても、吐き戻しの原因となる明らかな異常は確認されませんでした。毛を刈られたところは、徐々に毛が生えてきています。

2024.06.22(土)
文・写真=中川美帆