突破力のある佐藤二朗、自身の感情を託した稲垣吾郎

──刑事役の佐藤二朗さんの存在感も独特でした。人の滑稽さを表現しつつも、その存在感で物語が絶妙に暗くなりすぎないというか。

入江 役どころとしては昭和のオヤジ世代みたいな。図々しいけど突破力があって、息苦しい状況に穴を開けてくれる。

 佐藤さんは顔が派手で、なにも表情を作ってなくても目立つんですが(笑)、なるべく芝居を抑制しようとしてくれたので、僕としては安心して見ていられました。

──一方で、雑誌記者役の稲垣吾郎さんの“普通っぽさ”も、登場人物のなかで際立っていました。

 

入江 佐藤さんの刑事とは真逆で、透明な存在というか傍観者なんです。傍観者がゆえに最終的には誰よりもわかりやすく自問自答する。僕自身もコロナのときにもっとできたことがあったんじゃないかと思うところがあって、そういった感情を稲垣さんに託しました。

──配役がことごとくハマっていると感じましたが、俳優それぞれの演技に手応えは十分でしたか。

入江 僕は演技の方向性についてはあまりディレクションしません。俳優さんが脚本を読んで考えてきたことの方が面白いというか、自分の想定をはるかに超えてくる感じがあるからです。今回はほぼ、何かをリクエストする必要はありませんでした。

 その一方で、終わりをどうするかわからない状態で撮っていたんです。もちろん、脚本にはいちおうあるんですけど、どのシーンで終わってもいいというか…実はそれがすごく不安でした。

最後のシーンにこめた祈り

──杏が生きる希望を取り戻し、それがゆえ絶望に陥る“ある”出来事ですね。ラストの切なくも美しいシークエンスはとても印象的でした。

入江 あれは撮影の浦田秀穂さんと照明の常谷良男さんコンビの力が大きいです。撮っていくなかで、最後のシーンは暗い光じゃなく、ある種の爽やかな光のほうがふさわしいという暗黙の了解ができていたんです。

 杏にとっては苦しい瞬間なんですけど、いろんなものから解放される瞬間でもある。

2024.06.21(金)