―(略)―全日制高校が合わなくて途中編入した彼女は、ひとりでランチしているわたしに声をかけてきた。
「一緒に食べようよ」
ひとりでも平気だったはずだった。それなのにYちゃんの誘いに涙が出そうになった。
ずっとさみしかった、と気が付いた。
(「文庫版特別エッセイ」より抜粋)
これは実際にあった話です。一人きりで東京に出てきて転校を繰り返して、大人の中で仕事をしていたから、自分は強いんだ、と勝手にずっと思い込んでいたんです。なのに、「一緒に食べよう」と言われたら、ものすごく嬉しくてドワーーッと泣きそうになった。このときの衝撃っていうのは今だに覚えています。なんだろう、自分の心は石のように硬いと思っていたら実は薄いガラスみたいな硬さで、声をかけられて一気に割れた感じ。実は強がってたんじゃないか、と振り返って思います。
万葉と沙羅
定価 825円(税込)
文藝春秋
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2024.06.13(木)
文=「文春文庫」編集部