中学で友人関係に苦しみ、学校に行けない時期があった主人公・沙羅が進学先として選んだのは通信制高校。そこで思いがけず、幼なじみの万葉と再会。古本屋でバイトする本好きの彼に影響されて、読書が苦手だった沙羅も本を手にとるようになり――。今月、この二人の高校生をめぐる瑞々しい青春小説『万葉(まんよう)と沙羅(さら)』 の文庫刊行を記念して、書評家、作家、俳優、歌手として多彩に活躍している著者の中江有里さんにお話を伺いました。(全3回の1回目)
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4つの高校に通った、激動の高校時代
もともと、この本を書くきっかけは、高校生直木賞を運営しているオール讀物編集部から、「高校生向けの青春小説を書いてもらえないか」というオファーを頂いたのが最初です。
私自身が5年かかって4つの高校に通って卒業したという経験があったので、そのことはいつか書きたいな、とちょうど思っていたんです。4つの高校に行くっていうことは滅多にないことだと思うから。
私は大阪市出身で、小学校も中学も大阪です。一人でいることが好きなタイプだったので、学校の集団生活になじむのに苦労しました。中学校は学校が荒れていたこともあって、大変な思いもしたのですが、なんとか乗り越えて高校へ進学しました。
高校1年生の1学期に大阪の私立の女子校に通い、そこから芸能界に入るために東京に越して、2学期は公立の夜間の定時制へ。3学期は定時制高校の午前部へと1学期ごとに転校を繰り返しました。そして最終的に、この小説の舞台のモデルになった都立の通信制高校に入りました。
2校目の公立の夜間高校に通ったときは、生活のリズムが崩れてしまい、朝起きられなくなりました。クラスメートに遊びに誘われることがありましたが、授業が終わった夜9時以降なので断っていたら、そのうち付き合いが悪い、と無視されるようになって。
1限目と2限目の間の給食(夕食)の時間、無視をするクラスメートがいた6人掛けのテーブルしか空いていなかったのでそこに座ったら、クラスメートに言われたんです。「私たちのこと、友だちと思っているわけ?」鼻で笑われました。それまで私は一人で平気だと思っていたし、そもそも無視されているわけだから、その子たちの事を友だちとは思っていないけれども、わざわざ相手が悪意を向けてきたことに対して、ああもうここには居たくないなあと。みだれた生活サイクルを立て直したくて、昼間の学校への転校を考えました。
2024.06.13(木)
文=「文春文庫」編集部