みんなが翼を得られる社会のために声をあげていい
今私たちは、すべての国民の平等や個人の尊重を謳う日本国憲法の下で生活しています。でも、本当にそうでしょうか。たぶん多くの視聴者が、寅子や作中に出てくる多くの女性たちが虐げられている様を、現代に置き換えて視聴しているのだと思います。
現憲法の下でも、ほんとうの意味での平等はなかなか実現されていません。たとえば結婚後の姓の選択、賃金格差、職場の昇進において女性は男性より不利な状況にあること。入試で女子の得点を一律に減らし、女子の合格者が増えないよう調整されていたこと。セクハラやDV……。これが2024年の現実です。
寅子が戦ってきた時代と同じことは現代でも起きています。もちろん女性だけでなく、性的少数者、障がいを抱えた人、在日外国人……あらゆるマイノリティに対する不平等な状況、つまり社会的排除もまだ残っていて、さまざまな問題に対して「おかしい」の声があがり、現在も裁判で闘われています。
本作では女性がやりたいことも言いたいことも言えず、男性の後ろで耐えたり、諦めていたりするときのすました表情として「スンッ」という表現がありました。おおごとにせず、自分が耐えれば良いという考えているときに用いられる表現です。今でもあることでしょう。でもそれ、美徳でもなんでもありません。
現憲法下においても、その下で生活している私たちが負の歴史を受け継いでそれまでと変わらずにいたら、差別や不合理な取り扱いは、現実社会に温存されてしまうのです。憲法は「ある」だけではあまり価値がありません。それに本作では盾や傘や暖かい毛布のように語られてる法律ですら、まだ人権侵害まがいのものは残っています。法律は国会でつくられるため、多数派や権力保有者に都合がいい意見が優先されがちになっています。そうすると、私たちに保障されていたはずの権利が知らないうちに奪われていた、なんてこともありえます。
それでもみんなが現状に対して「おかしい」と感じたとき、おかしな意見を覆すこともできるのが憲法の大きな特徴です。おかしなことを正すために使ったときに、「個人の尊重」を掲げる憲法は価値を発揮してくれます。つまり、憲法はあなたの「生きやすさ」の助けになってくれるもの。幸福追求のために存在してくれている。本作を観ているとそう信じたくなります。
ミソジニーなネット空間や世の中では、反フェミニズムの言説に触れる機会も多く、女性たちの怒りは嘲笑されてしまいます。でも、寅子たちのように戦ってきた人がいるからこそ、今の私たちの権利はある。そう思うと、やはり私たちが今すべきポーズは「スンッ」ではく「はて?」であるべきではないでしょうか。みんなが翼を得られる社会のために声をあげていいんです。『虎に翼』を観ていると、その勇気が湧いてきます。
綿貫大介
編集&ライター。TVウォッチャー。著書に『ボクたちのドラマシリーズ』がある。
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2024.05.31(金)
文=綿貫大介