平等は戦後の新憲法で定められた権利

「すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない」

 日本国憲法第14条を冒頭にかかげた本作。終戦を迎え、寅子(伊藤沙莉)はこの条文に出合います。改めて見聞きすると、なんて素敵な条文なんだろうと思いませんか? 寅子からすると、余計にそうでしょう。だって、大日本帝国憲法時代には、これに該当する一般的な平等原則の規定はなかったわけです。そして第24条では、家族に関して個人の尊重と男女平等も定めています。日本で人権保障が発展したのは、現憲法のおかげです。

 現憲法ができる前の不平等さは、ドラマで知る通り。封建的な家族制度や慣習のもとで、女性は若くして結婚し、家のために自分を犠牲にして働くことがよしとされ、家事労働と育児に専念させられ、その自立は抑圧されていました。

 それに加え、本作においては法律上も妻は無能力者とされ、財産は夫の管理の下におかれ、離婚にともなう財産分与請求権もなく、経済的に自立することも不可能な地位におかれていたこともしっかり強調。抜け落ちがありません!

 政治に参加する機会・権利を与えられていなかった女性は、戦時中は戦争に協力するための「愛国婦人会」「国防婦人会」に加入させられます。婦人会の活動に精力的な“おばちゃん集団”描写も『カーネーション』をはじめとする朝ドラあるあるですが、女性が主だって活動することが難しかった時代だからこそ、そこにやりがいを感じてのめりこんでしまうのも無理はない気がします。女性たちは、夫や親、子を戦場に連れ去られることに一言の批判をする自由すらないままに、天皇制とそれにともなう軍国主義の犠牲者として敗戦を迎えなければなりませんでした。

 ここでみなさん、『カムカムエヴリバディ』を思い出してください! 1人目のヒロイン・安子(上白石萌音)が生きた時代(『虎に翼』とほぼ同時代)は家父長制が圧倒的な価値観として存在。家長たる男性が権力を独占し、家族全員を支配・統率する家族形態にもとづくこの社会制度は、明治民法によって法的に保証されていました。女性は弱い存在であり、男性の監視下、保護下にある。女性は継ぎたくても家を継げない、結婚の許可は父親が与える、夫はタメ口で妻が敬語……安子はそれに抗うことはなく、むしろ無自覚に受け入れていて、その都度「なんでやろ」と困るくらい。

 たぶん、当時の多くの女性が「なんでやろ」だったと思います。でも、それが当たり前すぎて事の異様さには気づく術もなかった。本作の寅子のように「はて?」ができるようになるには、やはり「知識」が必要なんです。

2024.05.31(金)
文=綿貫大介