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治療しなければ4カ月。延命治療したとして6カ月から2年

「素人考えですが、この転移しているところも手術で取ってしまえばいいというわけではないのですか?」

 みずきの母が聞く。そうだ、がんの場所がわかるなら全部取ればいい。

「PET-CTに映るのはある程度大きくなってしまった腫瘍だけです。これだけ離れたところに大きながんがあるということは、全身にがん細胞が散っていると考えていいと思います。すなわち、目に見えるがんを切ってもまた再発してしまうので、意味がないのです。この状態では手術は適用外です」

「治すことはできるんですか?」

 みずきが聞く。

「残念ながら抗がん剤による延命治療しかできません」

 頭が割れるように痛み、涙腺はまたも決壊している。現実を遮断しようとする体に抵抗し、なんとか質問する。

「延命、というのはどれくらいできるのですか?」

「みずきさんのすい腺房細胞がんは症例が少なすぎてはっきり言えませんが、あくまで一般的なすいがんとして考えた場合、治療しなければ4カ月。抗がん剤で延命治療したとして6カ月から2年でしょう」

 4カ月? 次の春を迎えずに、みずきはいなくなるかもしれないということ?

 耳鳴りがし、現実の音が遠のく。

猛然と病院の情報をリストアップ

「状態からすればすぐにでも治療を開始すべきですが、いかがでしょうか?」

 治療? 治せないと言ったばかりなのに?

 抗がん剤は体を滅ぼすという話もたくさん聞いている。

 過去に見た映画の映像などがフラッシュバックし、みずきの辛そうな様子が目に浮かぶ。

「治療はどんなものになるのでしょうか?」

 再びみずきの母が聞く。

「みずきさんの場合若くて体力があるので、最初に強い抗がん剤を使ってできる限りがんを叩くということをしたいと考えています。ただ……」

 少し言い淀んでから言葉を続ける。

「すい腺房細胞がんの場合症例が少なすぎて、治療法が確立されていません。一般的なすいがんと同じ抗がん剤を順番に試していくという方法を取るほかありませんが、効くかどうかやってみないとわかりません」

 この人は一体何を言っているんだろう。

 目の前の白衣の人への信頼を一切なくし、震える声で僕は言った。

「セカンドオピニオンを受けたいと思っていますので、いったん治療については待ってください」

 診療を終え、ぐったりと座り込み会計を待つ。

 みずきと母が何やら話している。

 僕はスマホを開いて、猛然と病院の情報をリストアップし始める。

 動画のコメントですいがんの有名な病院はいくつか情報が入っていた。

 こんな日本の端っこの病院ではなく、東京など大都市の有名病院なら結果は違うはずだ。

 医療はどんどん進歩している。次々新しい治験なども行われている。

 まずセカンドオピニオンの予約を取らねば。

 会計が終わり、薬を処方してもらいに行く。その間に予約の電話を次々とかける。

 人気の病院は電話すら繋がらない。

 気持ちが焦る。

 あと4カ月しかないのだ。早く、早く。

 病院を出て今日泊まるホテルへ向かった。

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2024.05.27(月)
文=サニージャーニーこうへい、みずき