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絶望の底だと思っていた場所はまだ途中
ゆっくり話ができるようにと一般診療がない午後の時間の予約だった。みずきの母と病院で合流し、3人で待つ。
検査が立て込んでおり、担当の先生の手がなかなか空かないらしい。
PET検査の結果が良ければまだ手術の可能性がある。手術できればまだ治る可能性もなくはないと前回聞いていたので、意識しないようにと考えるが鼓動が速くなる。心臓が持たないので早く呼んでほしいが、結果を聞くのが怖い気もする。
結局、呼ばれたのは、約束の時間から1時間以上経ってからだった。
みずきが診察室の扉をノックすると、「どうぞ」と先生が答える。
「お待たせしてすみません。早速ですがこちらがPET検査の画像です」
と、挨拶もそこそこに結果を見せられる。
PCの画面には黒い背景に青色のみずきのシルエットが映っていて、脳みそが赤く光っている。他に目立つところとしてはお腹の辺りも光っている。
「PET検査ではブドウ糖が集まっているところが赤く光るようになっています。脳や腎臓は赤く光っていますが、もともと糖が集積する場所なのでこれは普通です。そしてこちらのすい臓の部分も赤く光っているのがわかると思います。がん細胞が集まっているところもこんな風に赤く光ります」
確かに、先生が指差したところが素人目にもはっきりわかるほど赤く光って見える。
「ただ、問題なのはこの部分」
先生が青いみずきの左鎖骨部分を指す。
「鎖骨のリンパに転移が見られます。転移があるので手術はできません」
音が遠ざかっていった。
再び涙が流れ、意識をシャットアウトしようとするが、歯を食いしばって前のめりに説明を聞く。
みずきは泣いていない。ただ黙って話を聞いている。
「がんが発生した場所を原発巣と言い、原発巣から遠く離れたところ、今回の鎖骨のような場所に転移していることを遠隔転移と言います。みずきさんは遠隔転移しているため、すい臓がんのステージ4となります」
絶望の底だと思っていた場所はまだ途中で、もっともっと暗い絶望が意識を飲み込もうとしていた。
2024.05.27(月)
文=サニージャーニーこうへい、みずき