ナットクできないことに「なぜ?」(ドラマでは「はて?」)と異議を唱え、検証し、自分たちが社会という器に合わせ馴染むのではなく、社会の意識を変えていこうとする寅子こそ、待ちに待ったヒロインだったのだ。

当たり前とされているルールに「はて?」

 寅子は、日本初の女性弁護士にして女性裁判官になった三淵嘉子がモデルである。ドラマは、戦後間もない昭和21年、憲法が改正され、第14条で「すべての国民は法のもとに平等である」とされたところからはじまった。そこから遡って、戦前へ。まだ男女に格差があり、女性は何かと理不尽な思いを被っている。やがて、昭和8年には法改正があり、女性も弁護士になれるようになる。

 それまでは婚姻している女性は無能力者で、資産はすべて夫が管理するという法律という名の謎ルールがまかり通っていて、女性はそういうものだからと従っていた。が、寅子は「はて?」と当たり前とされているルールがなぜそうなのか突き詰めていく。

 それを安心して見られるのは、すでに変革したという過去の事実に基づいているからだ。過去に戦って権利を勝ち取ってきた事実が、いまの私たちの希望になる。「はて?」と問うことによって、違うものの見方が生まれる。変化とはその行為の繰り返しからしか生まれない。

 寅子の母・はるを演じている石田ゆり子が、初回放送前の会見に登壇したとき、「このドラマで法律を扱っていることが、ちょうどこの今の変わりつつある時代の日本にもぴったりくるような気がしませんか」と発言した。

 ぴったりだと思うと主張するのではなく、気がしませんかと記者たちにやわらかに問いかけていたことも印象的な石田が言うように、いま、時代は変わりつつある。

 

米津玄師が主題歌を歌う意味

「#MeToo」運動が起こり、「わきまえない女たち」というワードも生まれ、女性の立場を変えていこうとする動きが活況だ。

 米津玄師の歌う主題歌『さよーなら またいつか!』は、ガラスの天井を思わせる空に向って悔しさを吐き出しながら、自分の空を手に入れようと喉笛をかき鳴らす。その声と、シシヤマザキの制作した、法衣を着た寅子の動きに合わせて花が咲き乱れ舞い、彼女とともに、時代も仕事も異なる女性たちが祈りを込めるように踊るアニメーションは、まさに、いまを物語っている。

2024.05.13(月)
文=木俣 冬