例えば、『あまちゃん』(13年度前期)は「地味で暗くて向上心も協調性も存在感も個性も華も無いパッとしない子」だったヒロイン・アキ(能年玲奈 現:のん)が海女やアイドルを目指しながら自分の帰る場所を見つける。
『ひよっこ』(17年度前期)のヒロイン・みね子(有村架純)は大きな目標はないながら、東京に出稼ぎに出て洋食屋で働き、やがて同じ職場の男性と恋して結婚する。
『カーネーション』(11年度後期)の糸子(尾野真千子)は女性が祭りに参加できないことを悔しく思い、だんじりの代わりにミシンを駆使してファッションの世界で生き、やがては老いを乗り越える域に向かう。
『ブギウギ』(23年度後期)は数奇な運命のもとに生まれたヒロイン・スズ子(趣里)がブギの女王となるが最終的には家族に回帰する。
みんなそれぞれ生き生きとして魅力的で、お話もとてもおもしろいものだった。が、いかんせん朝ドラ=「ホームドラマ」という前提があったため、身の回り半径数メートルの世界観から出ていけなかった(彼女たちの幸せが間接的に誰かを幸せにすることは別の話とする)。
社会問題に取り組むヒロインを描いた作品として先行するのは『おかえりモネ』(21年度前期)だ。東日本大震災のとき、何もできなかったことを悔やみ続けるヒロイン・モネ(清原果耶)が気象予報士を目指す。彼女の視座は災害から人々を守るという未来に向かっていたが、『おかえりモネ』はまだ序章でしかなかった。
そして2024年、ついに毅然と社会を変えるヒロイン・寅子の登場である。もちろん、職業にも生き方にも上下はないし、専業主婦だっていいし、結婚をしなくたっていい。何を選ぶかは個々の自由であって、どの朝ドラのヒロインもみんな素敵だ。
だが、朝ドラを見ている我々視聴者はもはや、この不自由過ぎる社会に限界を感じている。どれだけ我慢してもよくなる未来が見えないのだから、仕事と結婚を選んだり両立させたりで悩むだけでは済まないところに来ている。誰もが自分らしい夢を持ち、かなえるためにも社会を変える必要がある。
2024.05.13(月)
文=木俣 冬