この記事の連載

 「自分を正しく届けるためにエッセイを書いている」という松井玲奈さん。「松井玲奈」ではない別人格を演じるお芝居と執筆とは、どのように取り組み方を変えているのでしょうか。エッセイにたびたび登場する食べ物への思いもお聞きしました。(全2回の後篇。前篇を読む


――「松井玲奈」を表現するエッセイと、「松井玲奈」以外の人格を演じるお芝居の仕事。それぞれ、どのように意識を切り分けているのでしょうか。

 まず、お仕事のお話をいただいた段階で「この仕事では、私は何を求められているのか」を考えるようにしています。

 たとえばお芝居では、「松井玲奈であること」を消すことが役目だと思っているので、「このキャストが玲奈ちゃんだと思わなかった」と思われるような演技を心がけたりしていますね。

 これは小説も同じで、「松井玲奈が書いた小説」だと思われないことをいちばんに意識しています。今書いている小説は芸能界をテーマにしていますが、自分からは完全に切り離した目線で書いているので、逆に「これって実体験ですよね」と思われたら失敗だなと自分では思っています。

 でもエッセイは逆で。「松井玲奈らしさを100%出す」という意識で書いています。自分の半径5メートル以内のことを、「私を正しく知ってほしい」という思いで書いているつもりです。

――大勢でひとつの作品をつくりあげていくお芝居と、自分ひとりで自分のなかに向き合って文章を書いていく小説やエッセイでは、向き合い方も異なります。どう両立させているのでしょうか。

 自分で「えいっ」とスイッチを切り替えなくても、それぞれ環境が違うので、自然に切り替わります。たとえば家の仕事用の机の前に座ったら「文章を書く」というモードに変わりますし、現場に行ったらお芝居をする自分に切り替わる。そんな感覚です。

 自宅の仕事机は、ただ本棚とパソコンがあって、文字を書けるスペースがあるだけなのですが、作業場が欲しくてつくりました。セリフもだいたいここで覚えています。

2024.04.28(日)
文=相澤洋美
写真=佐藤 亘