年齢を超えた友情の始まり
お届け物を受け取りにお屋敷を訪れたキキは、老婦人からオーブンが故障してしまったと聞いて、薪のオーブンを使うことを提案する。手際よく薪のオーブンの準備を始めるキキ。
その様子を見た老婦人は「お母さまのお仕込みがいいのね、段取りがいいわ。なんかワクワクするわねぇ」と笑みを浮かべる。老婦人は「空を飛べる」という「魔女」の部分ではなく、「キキがキキとしてできること」を褒めてくれたのだ。それは年齢を超えた友情の始まりだ。
キキの前に広がる未来を予感させる
キキが、疎外感に苛まれながらも、なんとかコリコの町でやっていけたのは、彼女がこうしたバイプレイヤーの女性たちと関係を結ぶことができたからだ。彼女たちは、ライフステージも生き方もキキとの関係性も異なっている。
だからこそ、まだ人生のなんたるかを知らないキキの前に、未来という名の余白が大きく広がっていることを予感させるのだ。
では「ルージュの伝言」と「やさしさに包まれたなら」はキキとどんなふうに結びついているのか。
(4)ファッションデザイナーのおねえさん・マキ
「ルージュの伝言」との関係を考えるには、キキと接点のあった、忘れてはいけない女性キャラクターを経由しなくてはならない。それはグーチョキパン店の近くに住むファッションデザイナーのおねえさんだ。
彼女の名前はマキ。彼女は、キキの最初のお客さんで、甥っ子の誕生日プレゼントとして、黒猫のぬいぐるみを運ぶことを依頼する。
都会的で洗練された大人へのあこがれ
彼女自身は、ほかの3人の女性のように、キキの物語にそこまで深く関わることはない。しかし、印象に残るシーンがある。それはキキがグーチョキパン店の店番をしている時のこと。店の前の道路を歩いていくおねえさんに店内から挨拶したキキは、彼女の背中を見送りながら「ステキね……。ファッションデザイナーなんだって」と漏らすのだ。
もちろんキキは、ファッションデザイナー志望ではない。この「ステキね」というつぶやきは、おねえさんの“都会的”で“洗練された大人な物腰”への憧れからでてきた言葉だ。
2024.04.01(月)
文=藤津亮太