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 冷戦時代、ソ連の支配下にあったエストニアで、俳優志望の若き二等兵セルゲイは、パイロット将校ロマンと恋に落ちる。しかしこの時代、ソ連において同性愛は法的に厳しく禁じられていた。

 実話を元にした美しくも悲しいラブストーリー『Firebird ファイアバード』。2021年、エストニアにおけるLGBTQ映画として初めて一般に劇場公開された作品で、コロナ禍にもかかわらず大ヒットを記録。これが後押しとなり、エストニアでは同性婚を実現可能にする家族法が成立し、2024年1月から施行された。旧ソ連圏では初めてのことだ。本作に主演、共同脚本も手がけたトム・プライヤーが、ロマン役オレグ・ザゴロドニーと共に来日。トムが、愛について語ってくれた。


――トムさんは「ファイアバード」では主演だけでなく、ペーテル・レバネ監督と共に脚本も手がけていますね。

トム 今回、プロデューサーに紹介されて監督と出会い、早い段階から制作に関わっていたので、たまたま書くことになりましたが、脚本家を目指していたわけではないんです。ただ書くことは昔から好きで、英国王立演劇学校(RADA)を卒業した後、自分の演技への熱を絶やさないために、短い脚本を書いたりはしていました。でも長編の脚本を書いたのはこれが初めてです。

 そして僕はジェームズ・ボンドが大好きなんですよ。冷戦下でKGBが出てくるという007映画のような要素もあって、これはぜひやってみたいと思ったんです。

――映画の背景となる1977年のソビエト連邦では、同性間の恋愛が発覚すれば逮捕され、5年から7年の強制労働が課せられたそうです。そのような非常に厳しい状況下で、セルゲイとロマンが恋をするということをどう受け止め、また俳優として演じましたか?

トム 俳優としては、とても興味深い、演じる甲斐のある状況設定といえます。全く違う社会、時代に生きる人物を演じるというのは非常に魅力的ですから。僕はイギリスに生まれ育ちました。現在のイギリスはゲイに対する差別は比較的ない社会なので、あまり嫌な目に遭うことはない。もちろん所属するコミュニティや家族によっては多少はありますが。

 でもこの時代のソ連は正反対です。当時のソ連でゲイであることが発覚したら「あなたの愛し方は間違っている」と言われ、死刑になってしまう危険がある。5年間の強制労働と言っても収容所から生きて帰れる人は殆どいなかったそうですから、死の宣告に等しかったんです。でも演じる上では、自分とは全く違う状況人物を演じるのは、とてもやり甲斐があるのは事実でした。

 「ファイアバード」では映画俳優として、そしてフィルムメイカーとしても、とても興味深い作業ができたんです。映画というのは演技だけでなく、音楽、編集、画質、色、音響などの要素と、ストーリーが合体した上で成立するわけです。そのために映画の演技は、非常にクリアでないといけないんです。いくつものクリエイティブな要素がきっちりハマるためにはね。

 具体的な例を挙げましょう。「マトリックス」でトリニティがエージェントに追われ、電話ボックスに駆け込むシーンを思い出してください。実際にはあそこでトリニティはただガラスに手を当てているだけなんですが、観客は彼女がものすごいことをしていると解釈するわけです。それが映画の演技であり、そこから生み出されるものがあるんです。

2024.02.20(火)
文=石津文子
撮影=深野未希