制御不能なバッシングにさらされ、外国へ移住も

 テイラーの人気は、2010年代なかば、5thアルバム『1989』によって最高潮に達したが、それが崩壊のはじまりにもなった。保守的なカントリー業界からリベラルなポップジャンルへ移行した彼女は、少数派として浮くようになっていた。

 当時、アメリカの女性ポップスターには、政治的活動に熱心かつセクシーな「イケてる」タイプが多かった。対して、テイラーは政治問題にあまり触れず、性的な方向に舵を切ることもない「優等生」キャラだった(余談だが、こうした当時のテイラーのキャラが、日本や中国でも彼女が親しまれた理由のひとつかもしれない)。

 外出するたび一挙一動が報じられるようになったテイラーは、過剰露出のような状態となって反感も買うようになった。同性スターたちと舌戦を繰り広げたり、俳優とのヤラセ交際疑惑が持ちあがったりしたばかりか、政治的沈黙によって白人至上主義者のアイコンにまつりあげられるという極端な立場に置かれてしまっていた。

「嫌われ期」がピークを迎えたのは2016年。前年にVMAの会場で“公開和解”したはずの宿敵ウェストが彼女にまつわる侮辱的な曲を発表したことで、当該歌詞をテイラーが事前に承諾したかどうかについての対立が起こり、テイラー側が嘘をついていたとする映像が流出した(証拠とされた映像はウェスト側に有利なように切り取られたものだったと後年発覚する)。

 制御不能なバッシングにさらされたテイラーは「キャリアの死」を感じて外国に引っ越し、人間不信に陥いりながら一年間隠遁者のような生活を送っていたという。

 それでもテイラーは、苦境を糧に音楽を作りつづけた。「評判」という意味の6thアルバム『Reputation』では「闇落ち」を宣言してダークな側面を披露。アラサーになると、政治発言を解禁。トランプ政権で社会が変わったこと、セクハラ被害を訴える裁判を経験したことが契機だったと語るドキュメンタリー映画を発表し、女性差別やLGBTQ+支援を訴える曲も制作した。

 キャリアの危機を芸術に昇華していったテイラーだが、日記的作風に限界も感じるようになっていた。有名になりすぎた結果、すこしでもプライベートな歌詞を書くと「メディア向けの売り文句」を作っている気分に陥ったと明かしている。

 そこでコロナ禍中、彼女はまたしてもサプライズに打って出た。いつもの個人的な視点ではなく、創作したキャラクター視点による物語調の二部構成アルバムをリリースしたのだ。これらが批評家にも絶賛されたことで、彼女のソングライターとしての地位は絶対的なものになった。

2024.02.07(水)
文=辰巳JUNK