この記事の連載

鶴谷香央理さん[マンガ家]

Q1:夜ふかしマンガ大賞に推薦する作品は?

●『使い魔サンマイと白の魔導師』明治カナ子/朝日新聞出版

 何者かに操られ、罪を被ったグリン。罪人でありながら新米魔導師として働いていたある日、偶然にも希少品種の魔物をゲット。人間の姿に擬態させてみたところ長身イケメンに! でも知能は幼児並みだった……。

「子どもの頃の読書体験のような、どこまでも広がりと深みのあるファンタジー世界と、絶妙に人間らしい器のキャラクターたち。せこくてとぼけた(そしてかわいい)やりとりの薄皮一枚隔てたところに、ふっと支配や死があるのがたまらない」

●『クジャクのダンス、誰が見た?』浅見理都/講談社

「グングン迫ってくる怖ろしい事件と謎、一筋縄ではいかない魅力的なキャラクターたち、タイトルの強いメッセージ。夜通し読んでいたいけれど、まだ3巻しかない! 続きが待ちきれない作品の一つです」

●『断腸亭にちじょう』ガンプ/小学館

「作者の経験したステージ4のガン闘病が、飾ることなく美しく、嘘をつくことなくサービス旺盛に描かれる。さまざまに繰り出されるマンガ表現の豊かさに圧倒されつつ、生死について描くことへの誠実さを感じられる作品」

Q2:人生で影響を受けたマンガは?

●『いつもポケットにショパン』くらもちふさこ/集英社

 須江麻子と緒方季晋は同じピアノ教室に通う幼馴染み。中学進学とともに季晋は西ドイツへ留学し、自分の実力を過少評価していた麻子もまた徐々に才能を開花させていく、クラシック音楽を題材とした作品。

「くらもちさんのマンガは、少女マンガの圧倒的なハッピーエンドの物語のなかにも、子どもの気持ちや日常のとるに足らない出来事の居場所はあるんだと教えてくれました。おばちゃんからもらったキャンディや、友だちが勝手にバッグを借りていくこと、コンクールへ行く電車のなかのどんよりした緊張を、自分の思い出のように覚えています」

Q3:夜ふかしマンガの楽しみ方は?

「真っ暗な部屋のベッドのなかで、スマホで読みます。没入できるので、目に悪いとわかっていてもなかなか止められません」

Q4:いま、特に注目している作品は?

●『アクティング・クラス』ニック・ドルナソ、翻訳:藤井光/早川書房

「いま自分がいる場所や生活が平穏である保証などどこにもないと、静かに鮮やかに教えてくれる作品。読後は不安というよりも“知っていた”という爽やかさが残る。次はどんな不穏を描いてくれるのか、新作が楽しみな作家さんです」

Q5:期待の新人作家とその作品は?

●『みやこまちクロニクル』ちほちほ/リイド社

「震災についても親の介護についても、日記のように“そのまま描いてある”ことのかっこよさ。さっぱりして見える作品のなかに、鬼のような取捨選択があるに違いないと思う。クルマの買い替えなど、その“取”の絶妙さに注目してほしい作品」

鶴谷香央理(つるたに・かおり)さん
マンガ家

『おおきな台所』でデビューし、第52回ちばてつや賞準大賞を受賞。『メタモルフォーゼの縁側』(KADOKAWA)でも多くの賞を受賞。

2024.01.28(日)
文=大嶋律子(Giraffe)