創刊号から連載するこのコーナーで読者の皆様の相談に答えてきた中野信子さん。『週刊文春WOMAN2024創刊5周年記念号』では、読者の皆さんから“中野信子さんの悩みへの回答”を募集します。締切は2月10日(日)です。
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Q 科学がどれほど進んでも、答えることができない、素朴な問いがあります──48歳・脳科学者・中野信子からの相談
――およそ人間にとっては「わからない」ということそのものが快楽の種となるのであって、解決のつかない課題があるべきだ、それを理解したい、解決したい、という思いこそが、人間が生きていくための力となり得るものなのだ、という理解は十分しているのですが(ドーパミンによって駆動される仕掛けによってその力が生まれるという構図です)、それでも感情のほうが追い付かず、もうこれ以上走るのは苦しいなと思う瞬間がしばしば訪れます。
内田也哉子さんとの共著『なんで家族を続けるの?』(文春新書)でも言及したことですが、どこまでも沈んでいって底の見えないような地獄が自分の中には存在します。これを故・樹木希林さんは「ブラックホール」と名付けているようでした。
同じものなのかどうか、本当のところはわかりませんが、表面だけに粉砂糖を振りかけたような禍々しい朗らかさや、胡散臭い明るさに裏打ちされた型通りの予定調和的な「幸せ」だの、底の浅い安易な正義感だのを見ると生理的に反応してしまい、ひどいときには蕁麻疹が出てくるので、それらを破壊してしまいたくなるのです。実際に破壊すれば大きなリスクを蒙るのは免れませんから、できるだけそういう場面からは距離を取り、破壊などという面倒くさいことをする代わりに、多くの人が思考停止して受け入れさせられている常識を壊すための言説を日々吐くということを仕事にしているわけですが。
何をどうすれば自分はこの地獄を笑って生きていけるのか
科学がどれほど進んでも、望みもしないのに(ほとんどの場合は完全に親の都合で)自分が生まれてきたのはなぜなのか、という問いに答えることはできません。同じように、なぜ自分がこのような人生を歩んでいるのか──100%意図的に現在の状況を思い通りにコントロールしているという人はおそらくいないはずですが──という問いにも答えることができないでしょう。そして、自分はいつ死ぬのか、死ぬまでに何をなすのか、それまでの間にどんなことがあるのか、答えられる人はいないでしょう。
2024.01.22(月)
文=中野信子