「菅田くんの優しさが心に来すぎて…」
監督もそれを汲んでくださって、各々のリアクションを撮るシーンでの回数を重ねることはありましたが、ツチヤの表情においては「何回もやりたい」という感じではありませんでした。監督やスタッフさん、皆さんの愛を感じたシーンでした。
声を張ったりテンションの高いシーンだったりしたので、撮影が無事済んで「終わった……」と安堵していたら、菅田くんが「喉に良いよ」と特製のお茶を差し出してくれました。その優しさが心に来すぎて味は全然覚えていないのですが、しっかり効きました!
――お笑いへの情熱が強すぎて苦しみ続けるツチヤを追ったヒリヒリした作品でしたが、現場の雰囲気はある種、明るいというか。
もちろん苦しい時間はありますが、同時に高揚している部分もありました。「わぁ、楽しい!」というものではないかもしれませんが、創作の醍醐味を強く感じられる場でした。
――監督は「ツチヤを“カイブツ”として見るのは周囲の人間で、本人は当たり前のことをしているだけ」とおっしゃっていましたが、岡山さんは人物像についてどのように感じましたか?
行動原理にはとても共感を覚えました。僕自身、事務所に入った当初はまだ足場がなく、人として居場所がない時期を経験してきましたし、その時はとにかく何とかしなきゃと思いすぎて血迷った行動もしていましたから(苦笑)。そういう意味では似ている部分はありますし、ツチヤが怪物なら自分も怪物だなと思います。「自分にとっては一番近い人だな」という印象は最初からありました。
――血迷った行動……?
これはちょっと恥ずかしくて人には言えないレベルです(笑)。ただ、そうですね……。芝居って本当によくわからないじゃないですか。色々な人の話を聞いたり、経験値を積んでいけば方程式のようなものはなんとなくできていくものですが、日本は海外と違って駆け出しの俳優がそうしたメソッドを学んでいく環境や教える土壌が浸透しているかといえばそうではありません。抽象的なレッスンのようなものはありますが、余計に考えすぎてしまいますし、言ってしまえば僕にとっては何にもすがれない状況でした。
「芝居って何だ?」がわからないまま事務所に所属していて、仕事を振っていただけてプレッシャーばかりがかかって……。どうすれば前に進めるかわからないし、前に進めたとしてどこに到達すればいいかもわからない。本当に視野狭窄状態で、人に言えないような役作りのつもりのことをやってみたりした――という話です。どうすればまともにカメラの前に立てるのか、セリフを話せるのかを悩みすぎて、狂わされてしまうようなことはありました。
――そうした苦しい時期は、少しずつ抜けていったのでしょうか。
良いワークショップの講師の方に出会えて、自分の中で強く光が見え始めました。そこで最初の礎ができて、「ここから派生して自分で考えていけばいいんだ」と思えて次第にオリジナルのこともできるようになっていったという流れです。
2024.01.03(水)
文=SYO
撮影=佐藤 亘
ヘアメイク=森下奈央子
スタイリスト=岡村春輝