『ズートピア』は、ここ20年の間に制作されたウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオの長編作品の中でも、出色の1本だ。『ロビンフッド』のような、擬人化した動物が登場する作品を、というアイデアからスタートした本作は、キツネが主人公のスパイアクションというアイデアを経由して、ウサギとキツネのバディ・ムービーという形で完成した。映画のために動物のリサーチを進めたスタッフは、最終的に、動物キャラクターを通じて、固定観念や偏見を扱う物語にたどり着くことになった。
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ウサギとキツネに向けられるステレオタイプな見方
進化した肉食動物と草食動物が平和に共存する都市ズートピア。主人公は、ズートピア初のウサギの警察官となったジュディ。彼女は「ウサギは警察官になれっこない」といわれながらも、子供の頃からの夢をついにかなえたのだ。初仕事が彼女の意欲の大きさには見合わない駐車違反の取締りではあったけれど。そこでジュディは「ウサギ=かわいい、あるいは弱い」というステレオタイプな見方による抑圧に抗っている。
一方ジュディと協力して、ズートピアで頻発する失踪事件を追うことになるオスギツネのニックは詐欺師だ。これはイソップ物語などにでてくるキツネのずるがしこいイメージを踏襲した役回りだ。ディズニー映画でも『ピノキオ』に「正直ジョン」を名乗るキツネの詐欺師が登場する。ニックもまた、憎めない性格ではあるが、そうしたキツネの系譜の上にいるように振る舞っている。
しかし映画中盤で、そんな彼の子供時代が回想される。ニックは子供の頃、肉食動物であるということを理由に、口輪を無理やりつけられて、いじめられた経験があったのだ。彼もまた、ステレオタイプな見方に傷つけられた存在であった。
『ズートピア』では、こうしたステレオタイプなものの見方が、個体間の問題というだけでなく、社会全体を揺るがす事態にまで発展していく。
2023.12.25(月)
文=藤津亮太