蝉谷 私の作品では、鬼や、妖怪を出していても、慣習はちゃんと時代に根付いたものを書きたいなと思うので、生活に関する部分、どういう寝具を使っていたか、どんな食事をしていたかなどは「妖怪の出る小説だから曖昧でもいいや」ではなく、その時代の風習を踏まえて、地の文で書くよう心掛けています。だから一応いろいろ資料は読み込むんです。でも、資料を読み込みすぎると、楽しいから、気がつくと、「小説一カ月書いてないな」となってしまいますね。もともと夢枕さんの『陰陽師』から影響を受けているので、妖怪を出しがちなんです(笑)。ただ、妖怪を出すからといって何でもありにしてはいけないとは自戒しています。人間の都合で、ここでちょっとアクションシーンを書きたいから妖怪を出して、殺して、となるような妖怪や怪異の使い方をしたくない。妖怪は妖怪の世界があって、人間は人間の世界がある。そこを自分なりにうまくルール化して、文章に全部出さないまでも、質問されたら答えられるぐらい世界観や設定はちゃんと煮詰めないと、妖怪は出しちゃいけないなと思っています。
武川 陰陽師は、人の世界と人の世界でないものの架け橋。陰陽師だけが両方行き来できるし、見ることができる。普通の人には怪異が起こっても何のことか分からないけれども、陰陽師にはそれを解くことができるという、その両属性というか、特異性というのがすごくいいんですよね。
澤田 奈良時代もそうですし、後の時代になってもそうですけど、陰陽師って専門技官的側面が強いじゃないですか。専門職ってどこにでも立ち入ることができるし、自分の専門範囲については何でも言える。獏先生の『陰陽師』シリーズでも、晴明が帝のことをずっと「あの男」と言い続けて怒られるわけですけど、技官からすると、少なくとも自分の専門分野に関しては「あの男」扱いなわけですよね。陰陽師という職域をもってすれば、いろんなところに自由に分け入ることができる、その特殊性が面白いと思っていて。それもあり、自分の奈良時代の陰陽師の話では、天武天皇が星を見るのが好きで、陰陽寮を作ることになったという設定にして、「じゃあ、天武天皇って星を見るのが得意なんですね」「それが全然当たらなくてさ」という背景にしました。身分の高下を問わずに人が活躍できる物語は楽しいなと感じます。
2023.12.12(火)
文=「オール讀物」編集部