2024年春に開業する北陸新幹線の延伸により、あらためて注目を集めている福井。そんな福井の豊かな自然が育んだ多様な“食材”、歴史情緒あふれる“史跡”を堪能できる史上初のナイトツアーが行われると聞き、丸岡城を訪れました。

 月が綺麗な秋の夜に、美しい現存天守で知られる丸岡城で体験する特別なひとときをお届けします。

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春は桜の名所・丸岡城を舞台に二夜限りのスペシャルツアーが開催

 名勝・東尋坊をかかえる福井県坂井市。この地のシンボルとして鎮座する丸岡城は、戦国時代に織田信長に仕えた武将・柴田勝家の命により造られたもの。またの名を霞ヶ城といい、春は満開のソメイヨシノに浮かぶ美しい姿で多くの人を魅了します。重要文化財に指定され、国内に現存する12天守のうちのひとつ。一度は完全倒壊したものの忠実に修復された唯一の天守でもあり、江戸時代以前からつづく由緒正しき古城の姿を見ることができます。

 そんな丸岡城の城郭で、ちょうどハンターズムーンが輝く秋の夜にスペシャルな宴「月待の宴 朧〜OBORO〜」が開催されました。このツアーでは、福井のフレンチレストラン「cadre(カードル)」と石川・金沢のスペインレストラン「respiracion(レスピラシオン)」の一流シェフがコラボした福井の幸のフルコースや、日本一短い手紙といわれる“一筆啓上”を楽しむことができます

 城郭に到着するや、さっそく上品な白いクロスが敷かれたテーブルに案内されます。目の前には迫力の丸岡城。これまでに体験したことのない圧倒的な非日常を感じさせられます。

天守閣で乾杯したら大切な人へ筆をしたためる

 はじめにお抹茶と菓子で旅の疲れをリセットしたら、最上階の天守閣へ。夜の城内は、いつにも増して厳かな雰囲気が漂います。暗い足元のなか、敵の侵入を遅らせるために作られた急な階段を登るスリル感もまた一興。天守閣につくと、そこにはかつての城主たちも愛したであろう壮大な景色が広がります。

 いつもなら当然、飲食が許されない城内。ですが、この宴のときばかりは特別に食前酒とアペタイザーが振る舞われます。高揚感とちょっとした背徳感が入りまじる「お天守杯」をいただいたら、つぎは「一筆啓上」を体験する時間です。

 「一筆啓上」は日本一短い手紙といわれ、相手に伝えたいことを簡潔にまとめた手紙のお手本とされています。徳川家康の臣下だった本多作左衛門重次がいくさの最中に家族へ綴ったとされる手紙がルーツで、坂井市・丸岡町では毎年「一筆啓上賞」の公募コンクールを実施。失われた手紙文化の復権を目指すとともに、丸岡町の伝統を発信し続けています。

 静寂の城内、月の光に照らされ心は露わに。特別な空間だからこそ、内に秘めた大切な人への想いも、素直にしたためられる気がします。

2023.11.20(月)
文=平野美紀子
写真=釜谷洋史