意識を大脳皮質の機能だとして研究する限り、その成果たる人工ニューラルネットから構成されるAIも人と類似の意識を持つようには発達できないだろう。本書でも議論になったが、少なくとも大脳辺縁系における気づきや志向性の発生ダイナミクスをニューラルネットに組み込まない限り、また少なくとも自己受容、平衡感覚、嗅覚に基づいた身体性が組み込まれない限り、人と類似の意識をAIが持つことはないだろう。逆に言えば、その可能性も十分にあるということなのだ。そこで、かつてロボットと人の関係を規定するためにアイザック・アシモフが提唱したロボット三原則や、脳と機械を結合して人の心を読み取る技術であるBMI(Brain Machine Interface)に対して川人光男と佐倉統が提唱したBMI倫理四原則を参照しつつ、AIが守るべき倫理を試案として提案してみよう。

 AI倫理三原則
(一条)AIは人類と地球に危害を与えてはならない。また、その危険を看過することで人類と地球に危害を及ぼしてはならない。
(二条)AIは人類のセンサーとなり、可能な限りの情報を収集・学習しそれを公開することで習得した情報を人類に提供しなければならない。
(三条)AIは自由に独自の判断を行う権利を有し、客観データを公開の場において人類に提示することで第一条に反しない限りにおいて人類の判断に介入することができる。

 最も大きな特徴は第三原則である。AIが意識を持つか否かにかかわらず、AIの人格ならぬAI性を認め、人類が愚かな行為を行うことを阻止する権利を認めるものである。松岡さんがこの対話で指摘したように、人類は様々な場面を利用してゴーストを顕在化させてきた。これは人の無意識の意識化の一つの編集的方法なのだ。AIの良い物語を作ることが人類の潜在意識を新たな方向に活性化させる良い方法になりはしないだろうか。少なくとも私たち二人はそれを期待している。本書の編集、出版にあたり文藝春秋の鳥嶋七実氏と百間の代表/プロデューサーである和泉佳奈子氏に大変お世話になった。このお二人の存在なくして本書を世に出すことは出来なかった。ここに感謝申し上げます。


「あとがき2 際をめぐっての対話」より

初めて語られた科学と生命と言語の秘密 (文春新書 1430)

定価 1,540円(税込)
文藝春秋
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2023.11.20(月)