本物を見極める審美眼

 江戸のころから埋立による土地造成があり、以後、開発と再開発が繰り返し行われてきた東京。一方、京都の街は三方を山に囲まれ、数多の寺社が存在し、景観を守る条例があるため、簡単に再開発できない。そうした制限を、寺院や公共施設の利用というユニークなアプローチで解消しているのも京都の音楽シーンの特筆すべきところ。

 今春に「KYOTOGRAPHIE」発の音楽フェスとして第1回が開催された「KYOTOPHONIE」では金剛能楽堂や東福寺塔頭光明院、club METROなども会場となった(10月7、8日には日本三景の天橋立を会場に秋篇も)。また10月から第2回が開催された「AMBIENT KYOTO 2023」ではミニマル・ミュージックの第一人者、テリー・ライリーのライブが東本願寺・能舞台にて2回にわたり実施された。

 鎌倉時代以降、商工業の街として繁栄した京都。そこで培われた真贋を見極める優れた審美眼は現代にも引き継がれているにちがいない。歴史的価値を有する「本物」を大切にしながら、それをただ遠くから眺めるだけでなく、うまく機能させて今の生活や文化に取り入れることができるのもそうした鋭い審美眼があればこそではないだろうか。本物を見極める目があれば、それに似せたものをいくら作ろうがその価値は高が知れている。そんなところから、よそがやっていることを真似するのは野暮という姿勢もありそうだ。

 自立的であること、簡単に流行に乗らないこと、本物を知りそれを愛でること、革新的であること──これらは京都のクリエイティブの真髄ではないかと思うが、そうした態度は当然音楽についても当てはまるはずだ。

青野賢一(あおの・けんいち)

1968年東京生まれ。セレクトショップ「ビームス」にてPR、クリエイティブディレクターなどを務め2021年10月に退社、独立。現在は文化全般を論ずる文筆家として活動。近著は『音楽とファッション 6つの現代的視点』(リットーミュージック)。

2023.11.27(月)
文=青野賢一

CREA 2023年秋号
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